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子供の頃から婚約者を愛しているゾフィーにとって、彼が他の女と抱き合うのを考えるだけで絶望と嫉妬で目の前が真っ暗になり、父親の下卑た言い方に抗議もできなかった。愛人のところに入り浸りでほとんど帰ってこない父とそんな父に絶望してゾフィーを異常に束縛する母の元で彼女は育ったから、自分を妹のようにかわいがってくれたルドルフと3歳年上の母方の従兄のハインリヒを慕っていた。だがゾフィーを束縛したがる母と伯母の姉妹とハインリヒはセットだったから、ゾフィーは次第にルドルフに傾倒していった。律儀なルドルフは恋人がいる今も失礼がないように婚約者としてやさしくゾフィーを扱ってくれている。でもゾフィーは、子供の頃と違い、侍女と恋仲になってからのルドルフとは距離を感じるようになっていた。それに2人は7歳も年が離れているため、ルドルフにとってゾフィーは成人後も妹のようにしか思えないようだった。
「今度の公爵家での夜会でルドルフはお前をエスコートする。彼が休憩室に行ったら、お前も行け。その前にこれを飲むんだぞ」
マティアスはそう言って媚薬らしき液体が入った小瓶をゾフィーに見せた。彼は詳しくは語らなかったが、ルドルフにも媚薬を盛るのだろう。
「こ、公爵はこんな計画、ご承知なんですか?」
「当たり前だろう。アルベルトも息子のわがままにほとほと疲れているんだ」
ゾフィーが黙って小瓶を受け取ったことをマティアスは了承と受け止めた。
「ああ、そうだ。ビアンカやハインリヒがルドルフのことで何か言ってくるかもしれないが、無視するように」
ゾフィーの母ビアンカは不誠実なルドルフとの婚約を破棄してハインリヒと婚約しろとかねてから主張してマティアスと対立していた。もっともビアンカがハインリヒを推すのは純粋にゾフィーのためというわけでなく、ハインリヒをゾフィーと結婚させて養子に入ってもらい、ビアンカが憎む妾腹のゾフィーの弟ルーカスに侯爵家を継がせないためだった。だが、マティアスは先の王位継承闘争で負けた派閥に与した侯爵家が負った打撃を回復させるためにゾフィーとルドルフの結婚による公爵家との繋がりは欠かせないと考えていた。当主が是とするなら、本来なら夫人の反対なんて振り切れるものなのだが、ルドルフと侍女の禁断愛と度重なる結婚式延期により、事態が混迷していた。
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