13.没落子爵家

3/3
前へ
/120ページ
次へ
ラルフと彼の兄ゴットフリートは家が破産状態になった後、寄宿学校中退を余儀なくされて、幼い頃からの婚約も破棄された。特にゴットフリートは寄宿学校の騎士課程卒業を目前に控え、卒業後は近衛騎士団に入れることになっていたから失望も大きかった。騎士課程の卒業資格がなければ従騎士から始めなければならなかったが、貴族の子弟でその過程を経て騎士になる人間はほとんどおらず、従騎士になるのも遅くて10代半ばまでの少年なので、当時18歳目前だったゴットフリートにはその機会も失われていた。それ以降、ゴットフリートはやる気を失って家に閉じこもっている。だが、借金のせいでフリードリヒが強制的に引退させられ、ゴットフリートが名ばかり当主になってしまった。 ラルフは寄宿学校を中退した後、王宮の下級官吏の試験を受けて合格し、それ以来、実質的に当主の仕事もしながら王宮で働いている。寄宿学校を卒業していれば、上級官吏試験を受ける資格があったが、とにかく職にありつけられただけでもラルフは感謝していた。 ノスティツ子爵家のタウンハウスは侯爵家当時のものだから、没落貴族には維持費の負担が大きく、ラルフは売却を主張したが、両親と兄の強烈な反対に合って仕方なく別館と使用人住居棟の建っていた敷地だけを切り売りした。残った本館は、タウンハウスを持っていない下級貴族が社交シーズンに王都に滞在するときなどに間貸ししてラルフの下級官吏の給料もつぎ込んでやっと維持している始末。使用人も料理人と庭師を兼ねる者と母の侍女、掃除と洗濯をする下働きの3人を通いで雇うのがせいいっぱいの状態だ。 そんなわけで28歳と26歳になったゴットフリートとラルフには結婚どころか婚約者もできるはずがない。2人の元婚約者たちは2人とも既に結婚して子供もいる。ラルフは元婚約者の幸せを願っているだけで未練はもうないが、ゴットフリートはまだ未練があるようだった。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加