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コーブルク公爵家は、悲しみに打ちひしがれた1年前に打って変わって、ミハエルの誕生後は喜びにあふれていた。公爵夫妻とゾフィーがミハエルを溺愛しているのはもちろんのこと、なさぬ仲のラルフも義息子のことがかわいくて仕方なかった。
「あーあー・・・あー」
「「「なぁに、ミハエル?」」」
ミハエルがあーあーと言うだけで皆自分に話しかけたんだと主張してゾフィーは半ばあきれながらも、家族と一緒にいられる幸せを感じていた。それと同時にいつもこみあげるのが罪悪感だった-この幸せはルドルフの犠牲の上になりたっている、義父母だって息子が自殺するきっかけになった自分を本当は恨んでいるのではないか-ゾフィーは幸せを感じるとすぐにいつもそう思ってしまってつい表情が陰ってしまうのだった。それにラルフが気が付かないわけはなかった。
「ゾフィー、どうしたの?なんだか落ち込んでいるみたいだけど?」
「いいえ、何でもないわ」
「本当に?また自分のせいでとか考えている?」
「・・・っ」
「図星みたいだね。僕は君がこんなにかわいいミハエルを産んでくれて本当に感謝しているよ。ミハエルがこの世に生を受けられて僕たちは幸せになれた。この子がいない人生なんて考えられない。ルドルフのことは不幸だったけど、それが君とこの子のせいだって考えないでほしい。そうじゃないとミハエルが実の父親のことを知った時に自分の出自に否定的な考えを持ってしまうよ」
「ありがとう・・・貴方は本当にやさしいのね」
「・・・うっ」
ゾフィーに女神のような慈愛をこめた微笑みを向けられ、ラルフは言葉がつまって頬を赤らめた。
だけど、ゾフィーがルドルフへの罪悪感で悩んでいる今はまだ、夫婦の形をどうしていくか、話し合えそうもない-そう思うとラルフは、自分は彼女の本当の夫として隣に立てないのだなと寂寥感がこみあげてきたのだった。
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