3人が本棚に入れています
本棚に追加
今日は十五夜だ。和美(かずみ)は寂しそうに月を見ていた。毎年、十五夜は楽しみにしていたのに、今年は1人だ。
「はぁ・・・。寂しいな・・・」
和美は、父、良一(りょういち)の事を思い出した。良一は今年の夏、交通事故で亡くなった。高齢者ドライバーの信号無視が原因だったという。
「お父さん・・・」
そこに、母、恵(めぐみ)がやって来た。恵はお茶と餅を持っている。一緒に楽しもうと思っているようだ。だが、和美は楽しそうではない。一緒に楽しんだ良一が今年はいない。
「どうしたの?」
「今年の十五夜はお父さんはいないんだなと思って」
ふと、恵は良一の事を思い出した。あの事故死は信じられなかった。まるで覚めない夢のようだった。だけど、すっかりそれから立ち直ることができた。早く和美も立ち直ってほしいな。
恵は空を見上げた。月がとても美しく見えている。見えないけれど、空から良一は月を見ているんだろうか?
「そうだね。天国で、お父さんが見てるといいね」
「うん・・・」
2人は良一を失った日の事を思い出した。
今年の夏のある日曜日の昼下がり、電話が鳴った。こんな時間に、何だろう。また、何かの勧誘だろうか?
「もしもし!」
恵は電話を取った。だが、電話の人は息を切らしている。慌てているようだ。何か、緊急の事だろうか?
「大変だ! お父さんが交通事故に遭って、危ない状況だ! 今、病院に向かってる!」
恵は驚いた。まさか、良一が交通事故だとは。本当に突然の事だ。何とか一命をとりとめてくれ。もっと生きてくれ。
「そんな・・・。今すぐ病院に行きます!」
恵は電話を置いた。その様子を、和美は呆然と見ている。何か緊急事態だろうか? 恵も焦っている。
「和美! お父さんが交通事故に遭ったから、早く病院に行くよ!」
「えっ!?」
和美は戸惑った。まさか、良一が交通事故だなんて。嘘だと言ってくれ!
2人は、恵の運転で病院に向かった。その間、2人は願っていた。何とか持ちこたえてくれ。そして、これからも平穏な日々を送ろう。
「お父さん・・・。お父さん・・・」
和美は両手を握って、祈っていた。この願いは通じるんだろうか?本当に大丈夫だろうか?
10分後、2人は搬送された病院に着いた。地位は大丈夫だろうか? それだけが気がかりだ。
「お父さんは大丈夫ですか?」
だが、入り口付近にいた印象は首を振った。その時知った。良一が事故で死んだと。
「そ・そんな・・・」
「死んだなんて・・・。嘘だと言って・・・」
2人とも、その場に泣き崩れた。こんなに突然、良一を失うなんて。まだもっと一緒に暮らしたかったのに。どうしてこんなにも突然、天国に行ってしまうんだよ。
「本当だって・・・」
そして、2人は良一と無言の対面をした。良一は顔に白い布をかけられている。布を取ると、そこには眠っている父がいる。だが、もう冷たい。もう起きる事はない。
「お父さん・・・。お父さーん!」
「どうして、こんな突然に・・・」
2人はベッドの前に泣き崩れた。そこに、院長がやって来た。院長も寂しそうだ。2人の気持ちがわかるようだ。
「高齢者ドライバーの事故だそうです。お悔やみ申し上げます」
「毎日言ってた。高齢者は運転免許を返却しろって。なのに・・・」
高齢者ドライバーの事故のニュースを見て、日頃から良一は言っていた。高齢者は危ないから、家族と相談して、運転免許を返納しろと。だが、そんな高齢者ドライバーの事故によって、死んでしまうとは。あまりにも無念だ。
いつの間にか、2人は泣いてしまった。あの時の事は、今思い出しても、悲しすぎる。だけど、乗り越えなければ。
「あれはつらかったね」
「うん」
もう夜も遅い。明日の朝食の準備をしなければならない。もう寝なければ。
「おやすみ」
「おやすみ」
恵は部屋を出ていった。だが、和美はその後も月を見ている。
「お父さん・・・」
和美は空を見上げている。だけど、天国にいるかもしれない父は見えない。とても寂しいよ。
「大丈夫かい?」
突然、誰かが和美の横にやって来た。誰だろう。和美は横を向いた。そこには白い毛の狼男がいる。和美は驚いた。まさか、狼男に会うとは。
「えっ!?」
「一緒に食べようかなと思って」
横にあるテーブルには、餅のほかに、柿の種と缶ビールがある。和美は少し缶ビールを飲んでいる。
「い、いいけど」
戸惑ったが、寂しくないのだからいいという理由で、和美は認めた。そんな夜もあっていいじゃないか。
「寂しいのかい?」
「うん」
和美は泣き止んだが、気持ちが晴れる事はない。良一がいないことに、まだ慣れていない。
「お父さんがいれば、もっと楽しいのに」
「そっか・・・」
と、狼男は何かを考えた。だが、言いたがらない。その様子を、和美は見ていなかった。和美は柿の種をほおばり、缶ビールを飲んだ。狼男は餅を口にした。
「今年の夏、亡くなっちゃったの」
「そうなんだ。大丈夫?」
狼男は和美の頭を撫でた。まるで慰めようとしているようだ。和美は少し嬉しくなった。
「いつも一緒に十五夜に月を見てたのに」
「そうなんだ」
そういえば今日は十五夜だ。月がきれいだな。こんな時こそ、餅が食べたくなる。どうしてだろう。
「でも大丈夫。今日は僕と一緒に見よう」
「あ、ありがとう・・・」
和美は月を見た。十五夜の月は、とても美しい。悲しみを忘れられそうだ。
「今夜は月がきれいだね」
「うん」
ふと、狼男は思った。あの月に、ウサギはいるんだろうか? そして、月で餅をついているんだろうか?
「あの月に、ウサギさんっているのかな?」
「どうだろう」
和美は笑みを浮かべた。いないはずなのに、なぜが想像してしまう。どうしてだろう。
「きっといるといいな。そして、餅をついていて」
「そうだね」
ふと、狼男は思った。自分の事が怖いんだろうか? それとも、好きなんだろうか?
「俺、怖い?」
「全然」
狼男はほっとした。怖くないと思っていて、よかった。それに、嬉しそうな表情だ。励ます事ができて、よかったな。
「よかった」
もう、帰る時間だ。残念だけど、また会えたらいいな。
「じゃあ、もう行かなくっちゃ」
「今夜はありがとう」
「どういたしまして」
和美は笑みを浮かべた。それを見て、狼男は部屋を出ていった。和美は今でも戸惑っていた。まさか、狼男がやってくるなんて。
気が付くと、柿の種も餅もなくなった。今日はもう遅い。歯を磨いて、寝る準備をしなければ。
「さて、歯を磨いてもう寝よう」
和美は1階の洗面台に向かった。だが、いつのまにか狼男はいなくなっている。もう帰ったんだろうか?
しばらくして、和美は戻ってきた。もう日付は変わっている。和美は電気を消して、ベッドに横になった。明日は休みだ。しっかりと疲れを取ろう。
夢の中で、和美はあの狼男と再会した。まさか、夢の中で再び会うとは。何か伝えたい事があるんだろうか?
「あれ?」
「和美、今夜はありがとうな」
和美は驚いた。どうして私の名前を知っているんだろう。今夜、初めて会ったのに。
「こちらこそありがとう」
「今まで黙ってたけど、俺、お父さんの生まれ変わりなんだ」
「そ、そんな・・・」
和美は驚いた。まさか、父の生まれ変わりだとは。どうしてあの時、気づかなかったんだろう。どうして、涙を流さなかったんだろう。
「和美、これからの人生、頑張ってな。天国からお父さん、見守ってるぞ。前を向いて生きていくれ!」
「お父さん! お父さん!」
そして、狼男は消えてしまった。和美は追いかけていったが、狼男はもういない。和美は肩を落とし、その場で呆然としていた。
目が覚めると、朝だ。カーテンから朝の光がさしている。
「夢か・・・」
和美はカーテンを開けた。だが、良一も、狼男も見えない。だけど、自分を見守っているかもしれない。そう思うと、少し元気が出てきた。
「お父さん、これからの人生、頑張るよ!」
そして、和美は元気に1階に向かった。これから、どんなことがあって、乗り越えてみせるよ。だから、見守っていてね、お父さん。
最初のコメントを投稿しよう!