狂気の隠し場所

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事件翌日の朝から始まった私への事情聴取。被疑者である主人と違って私は拘束されているわけでもなく、一回の時間もそんなにかからなかったが、その聴取は連日に及んだ。 ただ私自身への聴取は初日と2回目の時にほぼ終わっていて、3回目以降は、世間話をしながら時折り主人が供述したことへの裏ドリをするかような質問が中心。 刑事によると、公式に発表された被害者の死亡推定時刻は、先週の土曜の夜の6時から8時の間。 ごく普通のサラリーマンの主人は、休日のこの日、趣味のデイキャンプに行くといって午前中から一人で出かけてしまっていた。 一方、フリーランスのWEBライターをしている私は、その死亡推定時刻前後は、取材のため街の中心街で行われたハロウィンのお祭り騒ぎの雑踏の中にいた。 私のアリバイは一人で取材という弱いものだったが、当日の私の血塗れたマッドエンティストのコスプレ写真を見せたのと、実際の取材の写真や書きかけの原稿を見せたのが功を奏したのか、無事に信じてもらえたようだ。 --- 「奥さんにはお聞きしにくいことですが、被害者の山瀬聡美(やませさとみ)という女性と主人さんが愛人関係だったことはご存知でしたか?」 5回目の聴取では、初めて被害者のことについて聞かれた。 「主人が浮気しているのは、なんとなくそんな気がしていましたが、相手のことまでは…」 「やっぱ、そうですよね…」 刑事は私の回答は想定の範囲内だったらしく、“サレ妻”への哀れみの表情を浮かべて目を伏せた。 刑事によると、山瀬は28歳で、主人の取引先の社員。主人と愛人の山瀬の双方のスマホのメッセージアプリのやり取りから判断するに、二人のきっかけは山瀬の猛烈なアプローチから。 だが一線を超えてしまった主人は山瀬以上にのめり込み、そんな爛れた関係になってからもう2、3年経っているのだと、その刑事は私に気を遣ってか、主人に向けた怒気を含ませた口調で私に教えてくれた。 そんな“愛し合っていた”はずの主人と山瀬聡美の間に何が起こったのか。 「どうやら、別れ話のもつれの挙げ句って、感じのようです」 愛人関係を続けていた二人の間に、スキマ風が吹き始めたのが、ここ数ヶ月。 しばらく距離を置こうと言っていた山瀬から、主人に別れようとメッセージを送ったのが、事件の当日の夕方。 「それを読んだご主人さんが、別れ話をしようと言って部屋に呼び出して、カッとなって衝動的に殺っちゃったのかな?」 私の向かいに座る刑事はボソッとそう言った後、“しまった”と言った表情を浮かべて慌てて口を押さえた。 「大丈夫ですよ。 悪いのは主人に間違いないんですから。 私の方こそ、主人がこうなる前に何かできたんじゃないかなぁって考えると、苦しくなるんです。 私、浮気に気づいてからも、いつかは私の気持ちを分かってもらえると思って、気付かないふりしてましたし、主人にも私が気づいてることを悟られないようにしてましたから…。 一度ちゃんと主人と、このことについて向き合えば良かったのかもしれません」 力なく笑みを浮かべると、刑事は申し訳なさそうに黙礼し、俯いた。 「いいんです、刑事さん。 むしろ私も心の整理をつけたいので、今時点で刑事さんが分かってることや、刑事さんがお考えになってることも全部、あいや、可能な範囲で結構なんで、教えてくださりませんか」
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