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突然に中央ラブストーリー
数日後、ナツヒ一行は国へと帰って行った。帰途を共にしたシュイも当然のように中央に入った。
「え? ナツヒが帰ってきたの?」
ユウナギがその報をトバリから聞いたのは、それから幾日か過ぎた日暮れ時。
「ええ。しかし明日は一族の集まりがあるので、顔を合わせる時間はないかと。明後日ですね」
「そう……」
ユウナギは朝方変装し、一族が集まる堂の見える位置の、建物の陰に潜んでいた。そこからチラチラと覗いてはナツヒを探したが、結構な人数が集まっているので、彼を見つけたとしても姿を現すわけにいかず。どうせすぐさま自室に戻されてしまうだろう。どうしたものかと考えていたら。
「あれ? ユウナギ様?」
後ろから声を掛けられ、びくっとした。振り返ると、そこにいたのはナツヒのいとこ、アオジだった。彼はさっと膝をついて言う。
「お久しぶりです。ご即位おめでとうございます。挨拶が遅れまして申し訳ございません」
「あ、いいえ。ね、そんなふうにしないで」
「しかし……。まぁ、女王がそうおっしゃるなら、誰もいないところでは以前のように」
彼が相変わらずの人懐こい笑顔を見せたので、ユウナギはほっとした。
ちょうどその頃、アオジの来た道から今度はナツヒがやってくる。彼はふたりを見つけ、とっさに、近くの建物の角に隠れた。なんで隠れたんだろう、と自分に問いかけながら、そこでひっそりしていると。
「あ、その水晶の首飾り、綺麗ですね」
首元のそれをアオジに気付かれ、ユウナギは顔をほころばせた。
「これは、兄様に……」
自然と声も高くなってしまうようだ。
「へぇ、いいですね。そういえばこのあいだ市がありましたっけね」
ナツヒはそこまで聞き取って、通路を戻って行った。
「ところで、こんな物陰で一体何をされてるんですか?」
「んんと、ナツヒに会いたくて」
「ああ、外交から帰ってきたんですか。そうだ、俺、あいつが外交に出る直前に、久しぶりに顔を合わせたんですけど」
彼は思い出したように話す。
「ずいぶん背が伸びていて、いつの間にか大人になったなって思いました」
「大人?」
「ほら、あの頃は背も俺とそんなに変わらないくらいだったのに。なんだか変わったなって。日焼けもしたのかな」
「そ、そうかな? ……私はよく分からないや、ずっと側にいたし」
「もういい年なんだから、あいつもいいかげん身を固めればいいのに」
「……やだ、アオジ、親戚のおじさんみたい」
「ああ、俺ももう子が生まれたので、気分はおじさんです」
彼は落ち着いた笑顔を見せた。彼もやはり大人になったようだ。
「そうなの? おめでとう! あ、行かなくて大丈夫?」
「そうですね」
女王に激励され、アオジは堂に向かった。
またそこからナツヒを探し続けるユウナギ、胸によく分からないつかえが残る。
結局、集会が始まった頃までそこにいたが、彼を見つけられなくて、裏から入ったのだろうかと思った。それ以上そこで待っていても、終わりの時も分からず、また後で探してみようと諦めて戻って行った。
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