1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「警察には、何か聞かれたのか?」
俺の問いに姿見だけでなく、本人もあからさまに狼狽える。それでも彼女は「まぁ……色々と」と言葉を濁す。
「色々って?」
「失踪前後に会わなかったかって……だから正直に答えたの。失踪前に会ったことを。疑われるのは嫌だから」
消え入りそうな声で、彼女は言う。
「他には? それから香奈は、何か言ってなかったか?」
「何かって?」
俺は姿見を凝視し、疑問を浮かべた顔の彼女に向かって言った。
「俺と揉めてたこととか」
途端に彼女の表情に恐怖が浮かぶ。
今日、突然ここを尋ねた本当の意味に、彼女は気付いたようだった。
俺は本物の彼女の方を見る。彼女は平然を装っているつもりのようだが、怯えが目に滲んでいた。
「……知らない。聞いてない」
鏡の中の彼女は、顔を歪めて体を震わせていた。やはりというべきか、彼女は勘づいているようだ。
「ごめん。今日、この後予定があるから……そろそろ……」
そう言うなり、彼女が突然立ち上がる。
つられるようにして俺も立ち上がると、彼女を両手で突き飛ばす。
床にぶつかる鈍い音と彼女の悲鳴。
倒れた彼女にのしかかり、首を両手で締め上げていく。
苦しげに呻く彼女を見下ろし、それから姿見の方を見る。
鏡の中の彼女も同じだった。
動きも、表情も、何もかも。
人は殺される瞬間だけ、本当の自分になる。香奈を殺した時、俺はそのことに気づいた。
表と裏のない、本当の素顔に。
最初のコメントを投稿しよう!