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「どうかな? 口に合う?」
目の前に座る彼女が、不安そうな目で俺を見る。
俺はコーヒーカップを口に運び、「美味しいよ。とても」と笑顔で返す。
彼女は「良かった」と言って、ホッとしたような顔をした。
真実を確認するように、俺は彼女の横にある姿見の方を盗み見る。そこに映る彼女は、不安を滲ませた様子で、コーヒーカップに口を付けていた。
正面に座る彼女に視線を戻す。彼女は相変わらず、安堵の笑みを残している。
鏡に映る姿こそが、彼女の内面であって本心だ。俺は昔から、他人の感情が鏡越しに見えていた。
「香奈とは連絡が取れたか?」
「それが……全然繋がらなくて」
彼女は俯くなり、ソーサーにカップを置く。今にも泣き出しそうな悲壮な面持ちで、「どこに行っちゃったんだろ」と口にする。
「何も知らないのか?」
俺の問いに彼女は頷く。
「うん。急に連絡が取れなくなって……」
俺は姿見に視線を移す。動揺を隠せずに親指の爪を噛む彼女の姿が映し出されていた。
あからさまな嘘に、漏れそうになる溜息を喉に押し込める。
彼女は香奈が失踪したとされる日に、会っている。香奈と付き合っていた俺は、もちろんその事を知っていた。
「ねぇ、賢治くんは本当に知らない? 香奈から何か聞いてないの?」
「……何も知らないんだ」
俺は視線を逸らし、首を横に振る。
「そう……」
彼女はあからさまに肩を落とす。姿見に映る彼女は相変わらず動揺を隠せないようで、肩が張り、視線が泳いでいた。
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