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1章
神司と初めて出会ったのは、仲のいい5人組でかくれんぼをしている時のことだった。
「あっ……」
ドーム型遊具の下部に掘られたトンネルに隠れようとしたところ先客がいた。
彼は俺の声に反応し、こちらを見る。鋭い目つきのなかに垣間見える悲しい瞳。それはまるで人間を警戒している捨て猫のようだった。
「ここ空いてる?」
「広い空間だから空きはたくさんあるよ」
否定されなかったので、俺はトンネルの中へと入っていった。
四つん這いになりながら歩いている時に気がついたが、彼は足に絆創膏を貼っていた。
彼の隣に着くと一緒になって座る。横に置いていたランドセルが俺たち二人を隔てる。彼は読書をしており、『数字の不思議』という難しそうな本を読んでいた。
「足の傷どうしたの?」
「ちょっと転んで。大した傷じゃないよ」
「良かった。ここにはよくいるの?」
「うん。他に行く場所はないから。君は何をやっているの?」
「かくれんぼ」
「ここは流石に見つかりやすくないか?」
彼がそう言ったところで「豹雅、発見!」と鬼である亮太の大きな声がトンネルに響いた。彼の言った通り、俺はあっけなく見つかってしまった。再び彼を見るとジト目を浮かべている。
「名前教えてよ」
俺は気まずい雰囲気を打ち消そうと彼に名前を聞いた。
「王隠堂 神司(おういんどう しんじ)」
「王隠堂、格好いい名前だね。俺は小虎 豹雅(ことら ひょうが)。一緒にかくれんぼやらないか?」
神司に向かって手を差し伸べる。
彼は俺の手をしばらく見ると自分の手を添えることなく俺を見る。
「かくれんぼのやり方、教えてやるよ」
これが俺と神司のファーストコンタクトだった。
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