第一話

10/10
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
 ばばあ、というのは我瑠楽のことだろう。威凪刃は意外と口が悪い。しかしようやく香栗は状況を理解した。感謝を伝えに来た威凪刃が、我瑠楽の無茶な難題を聞き、自分も手を貸すと勝手に決めた、ということのようだ。  「でも、いいの? 教授からの課題は、時間がかかるものだと思うけれど」  「ご安心ください。元々、数日は滞在するつもりでいましたし、今から手紙を送れば、家族は納得してくれるでしょう」  ずいぶん理解のある家庭だ。食事を再開する威凪刃を見ながら、香栗は思考する。やがて、結論が出た。今は威凪刃に頼るしかない。  「それじゃあ……お言葉に甘えてもいいかな」  ステーキの最後の一切れを噛み、飲み込む威凪刃。ソースの付いた口元を上げて、手を差し出す。  「もちろんです」  香栗は威凪刃の手を握った。威凪刃の実力はまだわからないが、強靱丸の適正があるのなら、少なくとも威凪刃自身の安全は保証できる。  「ふふ。口に、ソースが付いているよ」  「いけません、香栗様。ソースを舐め取るなど、は、はしたないです!」  「そんなことするなんて、一言も言ってないのだけれど」  大丈夫かな。少し不安になる香栗だった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!