第三話

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 代金を払い終えた二人は、町に入ると、そこから三十分ほど歩いた。回復したはずの香栗の体力は底を尽きそうだった。しかし、町にある紅葉樹が精神的な癒しとなった。なんとかなりそう、と香栗は息を切らしながらも威凪刃に笑顔を見せる。  「ここのようですね」  地図を開いて再度確認する威凪刃。思染学園を思い出させる木造の大きな建物だ。立派だあ、と思わず香栗は口にする。女将や従業員が玄関で出迎えた。一部の荷物を持ってもらい、長い廊下を進む。やがて、女将が一室のふすまを開けた。畳の部屋。部屋はここのようだ。案内を終えると女将と従業員が去る。  「ふわあああ」  鞄を部屋の脇に置くと、香栗は脱力した。大の字になって寝転がりたい気分だったが、威凪刃の前でそれはなんだか躊躇いがあった。結果的に、正座を崩した形になる。  「お疲れ様です。香栗様」
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