第三話

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 「うん。威凪刃もお疲れ様」  正直に言えば、寝たい。だが、休んでばかりもいられない。香栗は部屋の中央に設置されている長方形のテーブルに資料などの書類を並べ始める。まずは地図を見て、明日に向かう場所を確認する。地図を睨む香栗に、威凪刃が声をかける。  「予定では明日、案内人と待ち合わせをするのでしたね」  「うん。我瑠楽教授の計らいのおかげでいたせりつくせりだよ」  「それはそうと、香栗様」  「なあに?」  資料を見つめ、予定などを確認する香栗に、威凪刃は話す。  「この宿は、温泉で有名だそうです」  「ああ。らしいね」  「……お背中を流させていただいても、よろしいでしょうか」  まるで、言いにくそうなことを言うように話す威凪刃に、香栗は視線を移した。威凪刃は正座で俯いていた。その様子がおかしくて、くすっ、と香栗は笑った。  「いいよ、それくらい。それと、少しは肩の荷を下ろしても良いと思うよ。くつろごうよ」  「香栗様……」  目頭を押さえる威凪刃。そんなに嬉しそうだと反応に困る。あはは、と苦笑してから提案する。  「それじゃあ、これが片付いたら、温泉に行こうか」  「はい、お供いたします!」
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