第一話

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 「先ほどの強靱丸のこともあり、香栗様の父上とは縁がありました。故に、私は小さい頃に香栗様と面識があります」  「そうなんだ。ごめんなさい。本当に覚えてなくて」  「無理もありません。私は部屋に引き籠もっていましたから。香栗様のお姿も、一方的に知っていて。ただ、文通のような、紙でのやりとりをしたことがあります」  「あ……」  微かに覚えがある。一時期、誰かと筆談をした。その子は、周囲と馴染めなかったと聞いた。だから、部屋に籠もるその子を元気づけようとしたことがある。もっとも、それはほんの一時的なもので、その子の家に足を伸ばすことも減った。まさか、目の前にいる彼女が、その時の子なのか。香栗はまじまじと威凪刃の顔を見た。  「香栗様は覚えていなくても、私は確かに救われていたのです。だから、あなたに会いにやっていました。ところが、先ほどのばばあとの会話を聞いてしまい、その……」
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