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会場に残されたMは、
ゆっくりと歩きだし、
会場内を確かめながら視て廻る。
マンションギャラリーで働いてた頃、
この会場に…
研修に訪れた時が、
懐かしい …
―
… あの時は、護ってもらった
ことが 嬉しかったのに な …
―
そのひとは、あの時も、
Mを自分の「特別なモノ」として、
そこに居る者に知らしめた …
… カツカツカツ
… カツカツカツ
そんなMが …
マンションギャラリーでの接客の
仕事をしていた、頃の、
研修は …
その!
接客担当は、常に、チャントした
アテンドマナーを身に着けて
いなければならない
から …
だから、そんな仕事では、
「慣れ」などは決して許されず、
この会社では、
どんなに接客の経験を積んだ者でも、
定期的に行われる、本社でのマナー
研修には、参加しなければならない。
だからマナー研修の当日、
Mは、とても、
緊張していて、
それでも本社へ一歩入れば、
Mだってmaxに覚悟し!襟を正して、
そんな恐怖のマナー研修に参加して …
「 おはようございます 」
「 おはようございます 」
そう!なにせ …
入った時からMは試されてるし!
それくらいこの研修では毎回、なにが、
判断基準になってるのかが分からない。
慣れ、を、正すのだから、
毎回、違うことが起きるし …
このマナー研修では、航空会社の
CAのOGが講師になり、接客の
ロープレも、行われる、
その日に分けられたグループごと、
boothごとにその場、その場
での、事が、何パターンも試され …
接客は「人」にもよるのだから、
試す人でも変わるし、
そう考えたらきりがなく、
この研修だって、本当に、
どれだけ?
実践で役に立つのかは、
分からないけど、
「仕事」として、接客を
するのだから、
やらなければならない、
こともある。
今回は、
お辞儀の仕方に始まり …
姿勢を正した、ランウェイを?
歩くモデルさんみたいな、
スマートな歩き方、
飛行機機内で、CAさんが、
お飲み物をお出しする所作を
学んだ。
お飲み物も、コールドと、
ホットでは所作が変わる。
ご挨拶、お声がけ、その発声も、
いろいろ。
これは、腹筋がやられる人もいる。
お腹がすくのも早くなる。
本社の別 floorまでは響かないけれ
ど、
かなり凄いことになる。
「 本日は、ご来場いただきまして、
誠に、有り難う御座います! 」
「 本日は、ご来場いただきまして、
誠に、有り難う御座います! 」
「 ありがとうございます! 」
「 ありがとうございます! 」
「 かしこまりました! 」
「 かしこまりました! 」
「 おかえりなさいませ! 」
「 おかえりなさいませ! 」
「 またのお越しを
お待ち申し上げております! 」
「 またのお越しを
お待ち申し上げております! 」
これは、お辞儀をしながらで、
離れたところに立つ、
講師まで聴こえる様、
口をハッキリと動かした、
ご挨拶の練習。
それに、動きのある、
立ち居振る舞いのマナーでは、
実際に広い会場内で、皆、全員が、
チャントできるまで、何度も何度
も、動き回り、皆、全員、立ちっ
ぱなしで、
繰り返される。
お揃いの、6㎝のヒールを履い
たままでも、キッチリと!
それに!
ボタンが全て留められたスーツ
姿での所作のチェックは、
身体はあまり自由には動かせず、
それに緊張感も加わって!
かなり疲れる。
中には耐えられなくなって壁に
寄りかかってしまう人もいるが、
すかさず講師からの檄が飛ぶ。
―『 確り、なさい!』―
それは女性だけの、研修でも、
穏やかに、とは言えない、
意外にハードなものだった。
皆、営業用スマイルはキープ
したままだけど、足元は次第に、
ガクガク?ガチ?ギクシャク?
してきてた …
―『 パチン!』―
講師が手を叩き合図する。
「 ハイ! それでは、
昼休憩にいたします。
午後は、座学研修です!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
… 皆、ホッとした。
今回の研修では、昼休憩は1時間。
外に食事に行く人や、この会場で
食べる人もいた。
「 … やっと座れるぅ! 」
Mの脚も、もう浮腫んでいる。
一緒のテーブルで食事をするは、
10名程、
その中にMの知り合いはいなかった
けど、
厳しい研修の後で、すっかり、皆
運命共同体のように打ち解けていて、
だからせっかく、
皆、輪になって愚痴りながら?
其々に笑みがこぼれる中で会話を
楽しんでたのに …
―『 バァン‼ 』―
突然響いたその音で、Mたちの、
楽しんでた休憩時間が邪魔された。
… シ-------ン
その音に驚き、皆がふり向いた、
何もない、広い会場のその壁には、
やたらと目立つ、防音効果のある、
重い大きな、両開きのドアが、
静かにここで控えた人たちの、
警戒した視線が集中する中で、
勢いよく登場した …
左右、片側ずつに人がつき、
その2人の揃った、力で、
開けられた …
そのドアから …
颯爽と、現れたのは、
王子さまではなく …
黒服な、長身の男!
総務担当にここまで案内された、
そのひとと、2人のおつきの者。
管理職として圧を振りまきながら、
そのひとを先頭に、三角形になって
入ってきた。
… コツコツコツ
… スタスタスタ
… スタスタ
… カタっ
…コト …コト …コト …
おつきの者は、手際よく、
数種類のラテと、フィナンシェを
皆の好みを訊きながら出していき、
それを、終えると、残りは纏めて
テーブルの隅に置いた。
ちゃんと、
今日の研修参加者の数だけ有った。
… トン♪
「 お疲れ! 差し入れだぞ!
皆、コイツの事宜しく頼むな!」
そうして …
まだ皆がキョトンとなってる中 …
なのに構わず?
そのひとはいきなり、
Mの肩に手をかけ後ろから支えた。
… シ-------ン
それを …
総務の担当者の女性は静かに、
通路に留まり事態を見守っている。
穏やかな笑顔で、
何も問題はない、と?
皆を安心させる様に、
この光景を眺めている。
おつきの者はそつなく、
距離を置いて控えている。
Mはキョトンとし研修メンバーは、
あ然とした。
… タン!
「 … じゃぁ、な、
良い子にしてるんだぞ!」
それでも引く事もなく?
顔を覗き込むように?
そのひとは、軽いタッチで、
Mのオデコに手のひらを当て …
そのまま堂々と!
… コツコツコツ
… スタスタスタ
… スタスタ
入ってきた時とは反対向きの、
そのひとを先頭に、三角形になり、
アッサリと退場した。
… パタン!
扉は再び閉められた。
… シ-------ン
会場は、静まり返る。
Mは、固まった。
… ザワザワ
「 ねぇ、スゴクナイ?」
「 凄いよね 」
… ザワザワ
… なんか、
変な空気になってる? …
「 … え?あの人?
ただ、派手な人なの … 」
…「あの人」は?
変だったかな?…
Mは自分で言った言葉に照れた …
けど …
ハードな研修で、疲れた身体には、
甘いものが嬉しい。
フィナンシェは、
あちらこちらを汚す事も少ない?…
―
… 嬉しかった な …
―
そのひとの匂いは、
このときにも残ってて …
ここに居ると …
そのひとの男臭さを実感した …
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