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1ー2 覚醒
俺の名前は、ロイド・ライゼンバーグ。
この世界の伯爵家の長男である俺は、ついこの前、この国、アイヒミューゼン王国の貴族が通うことになっている王立グリューワルド魔法学園を落第すれすれで卒業した。
それは、俺が勉強を怠けていたとかいうことではない。
仕方がないのだ。
俺は、魔力欠乏症なのだ。
生まれたときから、魔法が使えなかった。
それでも、俺の父親は、俺を伯爵家の長男として育ててくれたし、15歳になればグリューワルド魔法学園にも通わせてくれた。
それを快く思っていないのが親父の後妻のクリスティアと、その連れ子である義兄のスクレイドだった。
俺が生きている限り、俺より優秀な義兄は、ライゼンバーグ伯爵家の跡継ぎにはなれない。
だから、彼らは、俺に術をかけた。
何か、意識を操る類いの魔法だったのだろう。
俺は、自ら家も婚約者も何もかも捨てて軍に志願した。
それも、ドラグーン騎兵隊に。
ドラグーン騎兵隊というのは、特殊な部隊だ。
そこは、人間を魔術で改造して竜に変えて戦わせるという、俺の以前いた世界では考えられない非道なところだった。
神風なんてもんじゃない。
大抵の騎兵隊員は、犯罪を犯した者か、貧しくて他に生き残る道のない者だった。
この部隊に入隊すると肉体だけではなく精神も改造される。
反乱を起こさせないためにも人間だったときの記憶を消されるのだ。
なぜ、俺の記憶が戻ったのかは謎だ。
しかも。
人間だったときの記憶だけでなく、どうやら生まれる前の記憶まで戻ってしまったようだった。
俺は、いわゆる転生者だ。
異世界からの転生者である故に俺は、魔力を持たなかったのだ。
だが、記憶が戻った今なら話は違う。
転生者は、魔力を持たない。
その代わりに別の力を持っている。
転生者の多くは、精霊魔力を持っている。
それは、魔力ではなく、この世界の理に直接働きかけるような力だった。
つまり、無敵ってこと。
俺は、もう、できそこないなんかじゃない!
それどころか、望めばなんだって手に入れられるほどの存在だった。
俺は、笑いが止まらなかった。
この力があれば。
俺は、王にだってなれる!
俺を罠にはめた後妻や義兄にも復讐できる!
そう、俺が思ったとき、顔面を鋭い痛みが襲った。
「R27号!隊列を乱すな!」
それは、俺が所属するドラグーン騎兵隊の隊長であるラミナス隊長の声だった。
ラミナス隊長は、巨大な赤褐色のドラゴンだ。
もちろん、彼だってもとは人間だ。
しかも記憶をなくしている。
俺は、全てをぶちまけたいと思ったがぐっとこらえた。
ここで騒いでもダメだ。
「すみません!隊長」
俺は、素直に謝ると隊列に戻った。
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