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1ー3 裏切り
その日の訓練を終えてやっとの思いで俺は、兵舎に戻った。
そこは、家畜小屋と少しも変わりがなかった。
俺たちは、それぞれに割り当てられた部屋に、といっても薄い壁で区切られた場所にすぎないんだが、そこに入っていった。
とにかく俺は、藁のしかれた馬小屋みたいな場所に腰を下ろして考えた。
みなは、桶に入れられたエサを食っていたが俺は、そんなもの食らう気にはなれなかった。
もとの記憶を取り戻してしまった以上は、もう生の肉なんて食えない。
俺は、真剣に考えていた。
どうすれば。
もとの場所に戻れる?
もとの姿に。
この世界で無双するにしても今の竜の姿のままじゃな。
竜のまま勇者になったとしてもかわいい女の子にだって手が出せないし!
もちろんメスの竜を抱く気になんてならないし!
どうすれば、人間に戻れるんだ?
何より、記憶が戻った今となっては、後妻と義兄にとって俺は、犯罪の証拠でもあった。
俺は、はっと気づいた。
もしかして俺、ヤバイんじゃね?
記憶を封じたとはいえ、奴らが俺を行かしておくわけがなかった。
きっと最前線に送り込まれて殺されるに違いない!
そんなのは、嫌だ!
俺は、低く呻いた。
この世界に生まれ変わる前。
ロイドになる前の俺は、正直、目立たない男だった。
まったく友達もいなければ、恋人もいない。
どこで、どうやって生きて死んだのかはわからないが、きっと面白味のない人生だったことだろう。
もう、そんなのは嫌だ!
俺は、これ以上ないってぐらい幸せになるんだ!
そのためには、なんとか人間に戻らなくては!
俺は、ここから逃げ出すことにした。
しかし、義兄たちがいる家には戻れない。
俺は、ふと婚約者のロウランのことを思い出していた。
最後のお別れのとき、涙を流してくれていた彼女なら。
俺のために力を貸してくれるに違いない。
俺は、夜陰に紛れてそっと兵舎を抜け出すことにした。
兵舎には見張りはいなかった。
何しろみな、記憶を封じられているからな。
みんな心安らかに眠っている。
俺は、兵舎から逃げ出した。
そして、そのドラグーン騎兵隊の駐屯地からさっさとおさらばした。
俺だってけっこうな大きさだ。
飛び立てばすぐにばれる。
俺は、必死にロウランのいる王都を目指して夜の空を飛んだ。
幸いなことに誰もまだ追ってはこなかった。
おそらく逃げ出すような竜騎兵は、いなかったのだろう。
かなり王都から離れていたのか。
俺は、何時間も飛び続けた。
夜が明ける頃、ようやく王都が見えてきた。
俺は、王都の中心部にある貴族街の一角にあるロウランの屋敷に向かった。
だが。
ロウランの家の庭へと降り立とうとした俺は、屋敷の警備の兵士たちによって攻撃された。
全身を魔法の矢で射ぬかれ、地上に落下した俺は、必死にロウランの姿を探した。
彼女は。
屋敷の中から俺のことを見ていた。
彼女の隣には、義兄が立っていてその肩を抱いていた。
マジかよ?
俺は、信じられない思いで二人を見つめていた。
ロウランもぐるだったのか?
「はやく、止めをさせ!」
屋敷の主であるロウランの親父さんが叫んだ。
殺される!
俺は、なんとか体を起こすと翼を広げて雄叫びをあげた。
早朝の王都の空に俺の叫びが響き渡る。
空気がビリビリ震えて屋敷が壊れ、兵士たちは吹き飛んでいった。
俺は、最後にもう一度、ロウランのことを見た。
彼女は。
微笑んでいた。
ああ!
俺は、背中の翼を広げると空へと飛び立った。
俺は、婚約者にも裏切られていたのか!
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