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1ー4 何でも屋
それからのことはよく覚えていない。
俺は、王都から命からがら逃げ出した。
絶望しどこへともなく飛び続けた。
もう、ダメだ。
俺は、よろよろと空を飛びながら思っていた。
俺は、もう終わりだ。
俺は、東に向かって飛んでいった。
そちらには、ドラグーン騎兵隊の連中も近づかない。
広い魔の森が広がるその中心には、地底へと続く巨大な穴が開いていた。
それは、魔界と呼ばれる場所だった。
冒険者だってめったには近づくことがない。
魔物や、魔族だけが住んでいる世界だった。
俺は、魔界の上空まで飛んでいくとそこで力尽きて落下していった。
魔界へ。
落ちていきながら俺は、最後に青い空を見た。
この世界の空は。
こんなときにだって澄み渡り美しい。
俺は、意識を手放していった。
どこか。
俺は、暖かい何かに包まれているのを感じていた。
ああ。
ここは、居心地がよくって、いい匂いがする。
俺は、ゆっくりと目を開いた。
「気がついた?」
俺の目の前には、人間の子供らしきものがいた。
らしきとかいうのは、その子供が見たこともないぐらいに薄汚れていたからだ。
魔物とも、人とも見分けがつかない。
「お前、誰だ?」
俺は、子供の細い腕をつかんだ。
その子供は、一瞬、びくっと体をこわばらせたが、すぐに俺の手を振り払ってそこから駆け去っていった。
後ろ姿を見送りながら俺は、自分の両手を握りしめた。
あれ?
握った拳を開いて見つめる。
俺の両手は、人間の手のように見えた。
ちょっと鱗がはえているけど、人間の手にも見えなくもない。
もしかして魔法が解けてる?
俺は、がばっと起き上がると鏡を探した。
だが、その薄暗くてカビ臭い部屋には何もなかった。
俺は、まだ体が動かなくて這うようにして部屋のすみに置かれた瓶を覗き込んだ。
そこには水が入っていた。
揺れる水面に写った姿を見て俺は、歓喜した。
そこには、人間だった頃の俺とほとんど変わらない姿が写し出されていた。
ボサボサに伸びた黒髪に深い碧の瞳。
なんだか知らんが俺にかけられた竜化の魔法が解かれていた。
とはいえ、俺の額と頬には、鱗がはえていたけどな。
それでも、嬉しかった。
「気がついたようだな」
部屋のドアが開いて大男が入ってきた。
そいつは、灰色の髪に灰色の目をしたおっさんで、抜け目のなさげな様子をしていた。
「俺は、何でも屋のクルス・ライザーだ。ここにいる間は、お前の世話をしてやることになっている」
はい?
俺が首を傾げているとクルスは、にやりと笑った。
「さるお方の命で俺は、あんたを助けることになったんだ。感謝しろ」
「さる、お方?」
俺が問うとクルスは、困ったような顔をした。
「いや、俺もよくは知らんが、なんでも旅の魔道師だとかいってたが・・お前とこの」
クルスが首をしゃくった。
「ガキをセットで欲しいとか言ってたな」
俺は、ドアの影に隠れてこっちを見ている薄汚れたガキを見た。
俺がこいつとセット?
なんだそれ!
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