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1ー6 呪われた王子
「チヒロは、マジックキャンセラーだ」
クルスは、俺に話した。
マジックキャンセラー
それは、この魔法が生活から切り離せない世界に置いては、呪われた存在と言われるものだ。
クルスがいうには、チヒロは、特に強い力を持ったマジックキャンセラーなのだという。
「最初、ただの竜だと思っていたお前にチヒロが触れたとたん、お前は人の姿になったんだ」
クルスは、俺に告げた。
「まさか、竜化の呪いを受けた人間だとはな。そういや、最近、アイヒミューゼンのドラグーン部隊から竜が一体逃げたとかきいたが、それがお前だったわけだ」
「俺を軍に通報するのか?」
俺は、クルスに訊ねた。
俺は、もし、クルスが敵ならこの場でこいつを殺して逃げるつもりだった。
だが。
クルスは、ふふん、と笑うと答えた。
「いっただろう。俺は、お前とチヒロをあるお方から預かっているんだって。あの人よりアイヒミューゼンが金をくれるってんなら考えてもいいがな」
「あのお方?」
俺がきくとクルスは、言葉を濁した。
「今は、まだ、あのお方は、お前たちに会うことはできないらしい。いつか、あのお方がお前たちに会うと決めたらそのときには会えるさ」
クルスは、俺の手当てをチヒロと一緒に行うと俺ににやっと笑いかけた。
「せいぜいチヒロに嫌われないように気をつけるんだな。今のお前が人の姿でいられるのはチヒロの力のおかげだからな」
俺は、クルスについて部屋から出ていくチヒロを見送った。
クルスは、去り際に俺に告げた。
「いっとくがチヒロにいたづらするなよ。チヒロは、こうみえてもさる国の王子様なんだからな」
はいぃっ?
俺は、クルスの影に隠れているチヒロの薄汚い姿をまじまじと見つめた。
このガキが王子様だって?
それから俺は、チヒロと付かず離れず過ごしていた。
チヒロは、相変わらず無言で俺の世話をしてくれていた。
俺は、チヒロを観察するようになった。
確かに、そういわれれば庶民の子供にしたらなんだか洗練された仕草をしている。
だけど、なんで王子様がこんな奈落の底にいるんだ?
ここは、魔王の支配する最下層、いわゆる地獄に続く長い縦穴の中にある無法者の街だ。
外の世界では受け入れられない者たちや、魔物、魔族の住むところだ。
例え呪われたマジックキャンセラーであったとしても王子様がいていい場所じゃない。
しかも、チヒロは、どうやらクルスの奴隷のようだった。
なぜ?
王子様である筈のチヒロが奴隷に身を落としているんだ?
俺がじっと見ていることに気づいたチヒロがイラついた様子で俺を睨んだ。
「言いたいことがあるならさっさと言えよ!」
「じゃあ、きくけど、お前、なんでここにいるんだ?」
俺がきくとチヒロは、唇を噛んでうつむいた。
俺は、怒りに震えているチヒロを見てとうぶんは、また放置されることを覚悟していた。
だが、それは、俺の竜化が進むということだ。
俺が人でいるためには今は、こいつが必要だった。
「いや、答えたくなければ・・」
「裏切られた」
チヒロは、震える小さな声でささやいた。
「俺は、国に裏切られてここに売られたんだ」
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