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1ー7 チヒロ
チヒロ、本名、チヒロ・ラミナタス・オム・シュタウト。
その名をチヒロに名乗られたとき俺は、全身に鳥肌がたつのを感じていた。
シュタウト帝国
それは、この近隣でもかなりの大国であり、俺がいたアイヒミューゼン王国の敵国だった。
目の前に敵国の王族がいる。
それだけで俺の中に眠っているドラグーンの本性が呻き声をあげる。
こいつを食い殺したい。
だが、俺は、なんとかその衝動を押さえ込んだ。
この目の前の子供は、今の俺の生命線だ。
傷つけたりするわけにはいかない。
しかし、なぜ、シュタウト帝国は、チヒロを売ったのか?
「父上がこのことをご存じなのか。それは、僕にはわからない。だけど、僕の国では、全てのことが父上のご判断のもと行われているから、おそらくこのことも父上のご判断なのだろうと思う」
チヒロは、俺に語った。
それは、酷い話だった。
チヒロは、側室の子だ。
チヒロの母親は、異世界から聖女召喚でやってきた異世界人らしい。
「母は、異世界のニホンという国からきた。僕の名前も母がつけてくれた 」
俺は、頷いていた。
俺もチヒロという名前になんだか馴染みがあった。
たぶん俺の前世は、チヒロの母親がきたというニホンという国の人間だったのだろう。
俺は、チヒロの母親に興味を持ったが、チヒロが話したところによるとチヒロの母親の聖女であるその人は、数年前にすでに亡くなっていた。
そのためチヒロには、守ってくれる大人がいなかった。
唯一、母の側仕えであった乳母がチヒロの味方だったのだが、その乳母もチヒロが捕らえられたときに賊の手によって殺されたのだという。
チヒロは、王宮の離宮から拐われてこの奈落に売られた。
奴隷商人のもとでは、かなり辛い目にあったようだが、チヒロは、泣き言ひとつ言わなかった。
幸いだったのは、チヒロがよそに売られる前にクルスがチヒロを見つけたことだ。
さもなければチヒロは、考えるのもおぞましい未来が待っていたことだろう。
「クルスが僕を買ってここにつれてきた。クルスの依頼主が僕に興味があるらしい」
チヒロもクルスの上に誰がいるのかはしらないらしかった。
「前にクルスがその人は、魔道師である呪いを解くために研究をしているんだとか言ってた。それでマジックキャンセラーである僕に興味をもったんだ」
ふむふむと俺は、頷きながらチヒロの話をきいていた。
チヒロは、ここが奈落と呼ばれる場所であることもよく知らなかった。
クルスにいろいろ仕込まれてなんとかこまごまとした雑用がこなせるようになったのだという。
以前いた奴隷商人のもとでは何かというと罰に鞭打たれたりしていたが、クルスは、顔に似合わず暴力は、振るわなかった。
しかも、きちんと一日に二回食事を与えられた。
まあ、質素とかいうのも恥ずかしいような食事だがな。
それでもチヒロは、クルスに恩を感じているようだった。
「クルスがいなければ僕は、どうなっていたかもわからない。きっと、今ごろどこかで死んでいたのに違いない」
いやいやいや。
俺は、心の中でチヒロに突っ込んでいた。
騙されてるぞ、チヒロ。
クルスは、ただの悪い大人だ。
決してチヒロのヒーローなんかじゃない。
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