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翌日も僕はいつもの様に家を抜け出すと、あのバス停へ向かった。
ひょっとしたらまた彼女が、サチが居るかもしれない。そう思うと自然に足取りは軽くなった。
月明かりは、やはり今日も綺麗で満月から伸びる青白い夜の光が辺りを包んでいる。
ひと際、まるでスポットライトを浴びている様にも見えるあのバス停に彼女は今日も座っていた。
「や、やぁ。月が綺麗だね。」
下手なナンパ師の様な挨拶になってしまい赤面する。辺りが青白くて良かった。
「隣、座っても良い?」
彼女は、コクっと軽く頷くとまた目線を夜空へ移した。
よく見ると彼女の目尻が薄っすら紅くなっている事に気付いた。
「君、あ、サチさん、もしかして泣いてたの?」
彼女は無言のままだった。
まぁ、こんなに綺麗な満月と星を見ていると自然と涙が出てくるのは理解出来る。僕も昨日は、彼女を含む月明かりの景色に目頭が熱くなったを憶えている。
「分かるよ。」
そういうと、彼女はとても不思議そうな表情を浮かべて僕と視線を交わした。
正面から見る彼女はやはり綺麗だった。
ただ、よく見ると顔は意外と幼く見え凄く華奢な身体付きをしている事に気が付いた。
ひょっとしたら、年齢がずいぶん下なのかもしれない。
「サチさんっていくつ?」
「・・・15。」
若干の沈黙はあったが教えてくれた。
「15歳なのっ!?僕と一緒じゃんっ!どこの中学?この辺に住んでるの?」
僕は驚きからか、勢い良くいくつもの質問を一気にぶつけてしまった。
案の定、彼女はまた無言になってしまった。
「ごめん。つい・・。」
彼女は、まさかの同い年だった。本当に驚いたのは嘘じゃ無い。
彼女の華奢な体躯を見るに、正直もっと年下かと思っていた。
でも正直嬉しかった。
この一目惚れに僕は、身を委ねても良いんだと思えた。
その後も、彼女と距離を近づけたくて話続けた。
だんだんと僕の言葉に反応を示してくれる彼女を見ているとたまらなく嬉しかった。
途中、何度か僕は眠気覚ましに両腕を上げ、伸びをすると、サチはビクッと緊張する素振りを見せた。
まだ少し警戒されているのかもしれない。
一時間程話し、深夜一時過ぎになると「そろそろ行く」と言って解散した。
僕は凄く気分が高揚していので、サチに別れを告げると一人バス停に残り会話の余韻を楽しんだ。
翌日も僕は、同じ時間にバス停に向かった。
しかし、その日サチは姿を見せなかった。
次の日も僕は、同じ時間にバス停に向かう。
しかし、サチの姿は無かった。その日も一時間程待ってみたが彼女は現れなかった。
一人バス停に座って彼女を思うと胸がギュウっと苦しくなった。
翌日も、当然の様にバス停に向かった。
その日の空は曇天で月明かりも薄くいつもより、暗く感じた。
バス停に着くとパジャマ姿のサチが座り曇天の空を眺めていた。
「サチっ。」僕は思わず大きな声で名前を口にする。
すると彼女は、視線を合わせるとニコッと微笑んでくれた。
僕は断りを入れる事無く彼女の横に座ると軽い挨拶をして話し始めた。もっとその笑顔を見たくて仕方がなかった。
だが、話しの途中思う所があった。
9月も終わり、夜はもうそこそこ冷え込んでくる。
彼女のパジャマ姿は、たしかに可愛らしいがそれ以上に寒そうに見えた。
「サチ、寒くない?」
彼女は「平気」と一言言うのみだった。
僕は「ちょっと待ってて!」と言ってバス停から少し離れた自動販売機で、温かいココアを買って彼女に手渡した。
「貰っていいの?」
「うん。飲んで。サチの為に買ったんだ。」
「ありがとう。・・・温かい。」
そう言って彼女は両手で缶を包む様に持った。
その時、不意に見えた物があった。
サチの左手には、痛々しく包帯が巻かれていたのだ。
「サチ。」
「なに?」
「その手どうしたの?」
彼女はその後黙ってしまった。
何か踏み込んではいけないところに触れてしまったのだろうか。
先ほどまでのリラックスした彼女から出会った日のあの無機質な表情に変わっていくのが分かった。
その日は、その後すぐに解散した。
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