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基本サチは週に2〜3回、不定期にバス停に姿を現す。彼女が居る日は決まって僕より早い。
僕は、凄く待ち遠しい気持ちで毎日深夜バス停に顔を出す。彼女も同じ気持ちだと嬉しいなと期待してしまう。
あれから何度もサチとバス停で会い、たくさん話をした。時折見せるあの笑顔がたまらなく好きだ。
その日は、雨が降っていた。
バス停に到着するとサチは居らず僕は一人腰を降ろす。雨が止むまで待とうかと思った。
すると、サチが遅れてやってきた。
傘も差さずに、いつものパジャマもビショビショに濡れている。
「サチっ!」
僕は彼女をすぐにバス停に引き寄せる。
抱き寄せると、身体は冷え切り少し震えていた。
僕は何が何だか分からなかったが、一生懸命に彼女を抱き失った体温を戻そうと必死になった。
「何があったの?」
彼女は、僕の胸に顔を埋めている。
「サ、、」
顔を上げた彼女のこめかみが痛々しく腫れ上がり青くなっていた。
「なっ。どうしたの!?何があった?」
彼女は黙ったままだった。
「サチ。とりあえずこのケガ、親に相談しよう。」
「できない。意味が無い。」彼女は言う。
「じぁ、せめて今日は一旦家に帰ろう。身体も冷え切っているし風邪も引くかもしれない。」
「・・・無理」
「どうし、、。」
そう言い掛けた時に、一つ頭によぎった。とても嫌悪する事で口にしたくは無い事だった。
「サチ・・・もしかして帰れないのか?」
サチは黙っている。
「入れてもらえないのか?家に。」
サチは否定しない。
「そのケガってまさか、、親に?」
彼女は小さく頷いた。
「君は、虐待されているのか?」
彼女の目から涙が溢れた。
僕は、今まで感じた事無い程の怒りと恥ずかしさが同時に襲ってきた。
彼女をこんなにした親への怒りに。
そんな彼女に無神経にも、恋心を抱き毎夜バス停を訪れていた僕に。
抱きしめる両腕に力がこもる。
ここで会えると言う事は、彼女は家から締め出され行き場を失っていたんだ。
それなのに、僕は君がここへ来る事を心待ちにしていた。
なんて酷い事を毎日願っていたんだ。
償いたい。
彼女を守りたい。
「サチ。」
彼女は黙って顔を上げる。涙は止まる事を忘れている。
「少しだけ、ここで待って居てくれないか?」
僕は泣きじゃくるサチをバス停に残し、全速力で自宅に向い走り出した。
衣類や必需品、ありったけの現金を鞄を詰めるとまた全速力でバス停に向かった。
既に雨は止み。
雲の隙間から薄っすらと月明かりが差し込んでいた。バス停には月を見上げて待つサチが居た。
「サチっ。」
彼女は振り返る。
「逃げよう。二人で。」
僕には正直、どうすれば良いかなんて分からなかった。ただ、簡単に話し合いだけで解決出来る事では無いとだけは感じていた。
「いいの?」
「ああ」
「一緒に逃げてくれるの?」
「もちろんだともっ。」
「ありがとう。」
僕たちは、もう一度この月明かりに照らされるバス停で抱き合った。
今度は、お互いに力を込めて。
「どこか遠くに行こう。」
こうして僕たちは、その日この街を出た。
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