君のために僕は何が出来るだろうか

7/7
前へ
/7ページ
次へ
「これで終わりです。」 賑やかを増していく婚活パーティーの中、僕は話し終える。 「その後、彼女はどうなったんですか?」 南野さんは真剣な表情でこちらを見た。 「わかりません。警察に彼女の事を聞いても教えてもらえませんでした。バス停にもその後、彼女が現れる事はありませんでした。」 「これって、、、ひょっとしたら。」 南野さんは、ギリギリ聞き取れる小さな声で呟いた。 「高野さんっ。SNSやってますか?」 「え、SNSですか?すみませんやって無いんです。どうもああ言うのは苦手てでして。」 「じぁ、メールアドレス教えてくださいっ」 南野さんとアドレス交換をしたところで、二回目ベルが鳴りペア変更が行われた。 後は適当に時間が過ぎるのを待ち、何事も無く婚活パーティーを終える事が出来た。 式場を出る際、スマホが鳴った。 それは南野さんからの一通のメールだった。 【今夜12時、例のバス停で待って居てください。】 突然何を? と思ったがとりあえず【分かりました】と返信した。 時刻は夜の11時30分。 僕は、久々に。本当に久しぶりにあのバス停にやってきた。 偶然にも、今日は9月の終わり。 中秋の名月だった。 そこでふと疑問に思った。 「南野さんに、バス停の場所まで話しをしただろうか。」 いや、きっと話したんだろう。 こうして、月明かりの下。バス停に座ると自然と当時の記憶が蘇ってくる。 始めて会ったあの美しい情景。 徐々に、笑顔を見せてくれる様になった彼女。 あの後サチはどうなったんだろう。 両親と和解出来たのだろうか。 幸せになれただろうか。 彼女と最後に言葉を交わした場面が思い出されると、不思議と涙が溢れてきた。 ああ、もう一度。 もう一度だけで良いから彼女に会いたいなぁ。 そう願い空を見上げた その時。 僕に向け誰かが声を掛けた。 「今日は、中秋の名月と言って一年で一番月が綺麗なんだよ。」 懐かし声がした。 振り向くと一人の女性が居た。 「き、君は・・・」 「私はサチ。幸せって書いてサチ。」 彼女はごもる様な声で涙を浮かべて言った。 「君の名前は?」 ああぁ。どうして。 「僕の名前はミチル。満たすって書いてミチル。」 「月が綺麗ね。」 「ああ、凄く綺麗だ。」 いても経ってもいられずに、僕は彼女を抱きしめた。 僕たちは、7年ぶりに再会した。 またこの月明かりの下、約束の下に。 後日談。 7年前、あの別れた日。僕の写真と彼女の証言により本格的に虐待に対して警察が介入したそうだ。 彼女はその後、ここから離れた養護施設で生活する事になり、そこでの生活を余儀なくされた。 当然、夜に抜け出す事も出来ず。このバス停へ行く事が叶わなかったそうだ。 しかし、彼女は諦めずSNSなどを使い僕の事をずっと探していたとの事だった。 当然、僕たちの出会ったここら近辺には昔の友人に協力してもらい情報を拡散させていたとの事だ。 その中の一人が、僕が婚活パーティーで出会った彼女。 南野さんだった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加