君のために僕は何が出来るだろうか

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そしたら、ここにお客様の名字をお書きください。 僕は、言われるがままに⑮番と書かれたコースター状のネームタグに高野と記入を済ませる。 (お客様か・・・) 「高野様ですね。これで受付は以上になります。お時間まで2階男性側ロビーでお待ちください。」 受付の女性は、慣れた笑みを浮べエレベーターを指さす。 指示されたままにエレベーターへ向い受け取ったタグを胸に付けた。エレベーターを待っている間、手持ち無沙汰から受付前に設置された立て看板に目をやる。 【月岡市交流会】 僕が住む街、月岡市が開催するイベントで男女数十名が参加し軽食を食べ雑談するというもの。 まぁ、いわゆる婚活パーティーだ。 今日はそんなイベントに足を運んでいる訳だが、正直僕は乗り気ではない。 これも、そんな広告を見た両親に半ば強引に参加させられたもので、僕自身参加したいと考えていた訳ではない。 でもまぁ、そんな事を言ってしまったら、前向きに参加している方に怒られてしまうかもしれないが。 しかし、僕には全くと言っていいほどに興味が無いのだ。 僕には、あの日の光景が。 脳裏に焼き付いた、決して上書きされる事の無いあの月夜の情景が。 中学三年の時に出会った彼女への記憶がそれを許さない。 僕はまた、彼女ともう一度会えると今でも強く信じている。 「ペアになる人には、申し訳ないが正直に話そう。」乗り込んだエレベーターの中、僕は一人呟く。 ロビーに到着し、辺りを見渡すと既に多数の参加者が各々時間を潰していた。 パッと見、20代から40代くらいが多い。 今年で、22歳になったばかりで同年代の参加者なんて居ないと思っていたので少し安心した。 両親の「こんな田舎街は相手を見つけるだけでも一苦労なんだ!」、そんな言葉を思い出すとその意味に妙に納得する。 とりあえず空いているスペースを見つけ、スマートフォンを取り出し開始時刻まで時間を潰した。 午後三時、ついに1階大広間にて本日のイベント【月岡市交流会】がスタートする。 まずは、開催元である役場の地域復興課担当者からの挨拶が有った。 その後は司会者へマイクは手渡され、雇われた司会者だろう。慣れた口調で軽い笑いを取り入れつつ上手にイベントの説明を進めていく。 男女がくじ引きでペアを作り、約15分程でまた別のペアを作るというものが基本ルールとなっている。 その際、続けて同じ人とペアになる事もOKらしい。 (まぁ僕には関係無いのだが。) 司会者が名字と番号を次々読みは上げていき、男女のペアが作られていく。 不幸にも、僕とペアになったのは⑧番と書かれたネームタグを付けた南野という若い女性だった。
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