二つの笑う月

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月が増えたのは三日前だ。 そんなものは狐か狸が化けているに違いないのだからさっさと偽物を捕まえてしまうがいいと急かす声もあったが、月に触れることは犯罪である。万が一にも間違えて本物の月をとらえてしまうわけにはいかないと、警察も手をこまねくばかりだった。 むしろここまで天晴れに化けて見せるのなら好きに化けさせておくがいい、とまで言い出す始末である。 なんにせよ月が二つあって困ることもなく、しかし度を越した化け自慢に眉をひそめる者も多くあり、そもそも犯人は狐か狸か、双方根拠を挙げては犯人の押し付け合いをしてばかりいた。 そんな折に暦売りは考えて、狐には十日早い、狸には半月遅れた暦を売った。 果たして効果は早々に現れ、次の新月の夜にぽっかりとそこにないはずの満月が浮かんでいた。 捕えられた正体はで、これが狐でも狸でもなかったものだから皆がみな肩透かしを食らう結果となった。当のむじなも雲隠れをして、もはやこの話題に触れるものはないかのように思われた。 そんな中、満月の夜にむじなの三日月で自分たちの変身を止められはしないかと狼男ばかりが四苦八苦している。
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