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If物語
「ただいまーっと、、、」
クリスマスイブを翌日に控えた金曜、俺はクッキングサロンで作ったローストチキンをぶら下げ、無人の家に戻った。
同居する結城さんは今夜から仕事休み、俺も年明けの中旬まで大学は休講。
付き合って初めての冬、クリスマスは二人してしっぽりと家で祝おうと思ったわけ。
俺の彼、結城さんてのは一昔も二昔も前の暮らしや家族の在り方に憧れを抱いているところがあるから、クリスマスに手作りローストチキンなんて出された日には、面は無表情、心ん中は号泣レベルで喜ぶに決まってる。
だからの丸鶏ローストチキン。
脚にヒラヒラの白い紙巻いてるやつ。
家でできるもっと簡単なもの作っても良かったんだけど、『誰もが驚く凄うまクリスマス料理を作ろう』コースは1回こっきりの参加で気楽だったし、材料も調理器具も全て用意されるってことで敷居が低かった。
で、これが大正解。
理想通りに仕上がった美味そうなチキンは味を馴染ませるのに常温で一日置くのが良いそうだ。
食事を楽しむイブは明日だし、特殊なレンジ専用箱に入ってるから、食べる時はカリカリ状態を復活できるみたいだしね。
「う〜、さぶかったー。でも楽しかったー」
家に着いてすぐ丸鶏の入った大きな箱を棚に置き、冷えた両手を擦り合わせる。
「さてと夕飯、夕飯」
超ご機嫌な俺はブリ大根の支度に取り掛かりながらふと今日一番、印象深かった男のことを思い巡らせた。
「なーんか。妙な人だったよな〜」
───
クッキングサロンを探して迷い込んだ外資系のビル。
そこで俺は背の高い、大柄な紳士に突然声をかけられた。
もちろん人違いだったんだろうけど、その男性、俺の腕を掴んで驚いた顔していた。
でもってその数分後、本来の目的地だったビルに俺が到着するなり後から息せき切って現れて、今度はこっちを驚かせた。
それだけじゃぁない。
クールスマイル一撃で『飛び入り参加』とかなんとか言いつつ無理矢理割り込んできて。
普通なら一も二もなくお断りなんだろうけど、めちゃくちゃカッコ良い男性だったから、女性講師から参加メンバーのお洒落女子までがみーんなハート目になっちゃって、講師の『どぅぞ〜』の後に皆こぞって予備のエプロン貸出したりなんかして。
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