コールドケースより

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コールドケースより

ある晴れた日曜日、 柏木さんと俺共通の仲間らは河川敷に集まっていた。 早朝、ユキさんがバーベキューをすると言い出し、突然の招集にも関わらず、指定した河原にお馴染みのメンバー全員が集合してくれたわけ。 場所が郊外ってだけに広々してて景色も最高。 浅瀬を渡った大きな中洲では家族連れがピクニックしたり川遊びなんかしたりして。 俺達も適当な場所を見つけ、早速火熾しに取り掛っていた。 そろそろ食材を焼くかって頃、直ぐ側の原っぱから悲鳴と尋常でない呻き声が聞こえてきた。 「なになに?」 俺が振り向いた時には柏木さん始めコンロの周りにいた全員が騒ぎの元へと駆け寄っていた。 そこには中年の男女がいて、見ると女性が連れているミニチュアピットブルが短パン姿の男のふくらはぎ辺りに噛みついていた。 どうやら悲鳴は女の人からで、悲痛な呻き声は男性からのものだったらしい。 「こいつが犬蹴ったのが先だったからなぁ。かといって飼い主も距離取らなかったし」 こうなるまでの経緯を見ていた結城さんが騒ぎの間に入り、ピットブルの後ろ脚を掴んで持ち上げた。 「危ないですよ、結城さん!」 犬は興奮MAX状態で、飼い主の命令なんか聞いてない。 「さすが闘犬、執着えぐいな」 ユキさんの彼氏、亮介さんは言って俺とユキさんを後ろに下がらせた。 「おい天才、お前ならこういう時どうしたらいいか分かんだろ、教えろ」 生まれる時、『謙虚』って言葉を母親の腹に置いてきたであろう水無月さんがキセくんに向かって訊いた。 傍観者であるのに一人アワアワしていたキセくんが我に返り、水無月さんを見つめていたかと思ったら、スッと人差し指を立て明るい顔をした。 「思い出しました! 効果てきめんなる処方が一つあったのです! まてよ、、、ですがそれには若干の勇気が、、、」 途中までは嬉しそうに、けど言葉尻ははっきりしない。 その様子に全員がよほど危険なことかも知れないと思った。 「いえ、勇気と言うよりは覚悟でしょうか」 「さっさと言え」 水無月さんの苛立ちを制するように亮介さんが腕まくりする。 「キセくん教えてくれ、俺がやるから」 するとその横から柏木さんが前に出た。 「ここは僕が」 その間にもピットブルは興奮し噛み続け、男は助けを叫び、女性は飼い犬に効果のない諭しを施していた。 犬の後ろ脚を持ったままの結城さんが、 「コイツ腱狙って噛んでるぞ、誰でもいいから早くしてやれよ」 と催促する。 全員の視線が集まる中、キセくんは意を決したようにピットブルの尻を指差して言った。 「こういった場合、犬の肛門に親指を思いっきり挿し込むと口を放します。 こんな風にボタンを押すようにして」 そして親指を立てて前に差し出す仕草をして見せた。 瞬間結城さんが手を捻って犬の尻を皆の方へ向ける。 「だってよ」 そこから一瞬の沈黙を経て、亮介さんが笑いながら柏木さんに手を差し延べた。 「僕は患者に触れる身ですので不衛生は御法度。 すみませんが柏木さん、お願いします」 すると柏木さんは大真面目に首を振った。 「いや、悪いが僕の指は汰士(たいし)の尻以外、淫りには使えない。 犬は犬でもうちの仔犬専用だから」 言って俺の顔を見、優雅に微笑む。 「ちょっとぉっ。 やめて下さいよ柏木さん!  皆の前でそういうこと言うの!」 「頼む、 は、早く、た、、、助けてくれえ」 忘れかけられていた男の人が涙声になったところで煙草を咥えていた水無月さんが再び静かに声を発した。 「キセ、も一回手本見せろ」 「手本、ですか?  ああ、お尻に入れる指のことですね。 ええと、つまり親指をこうしましてですね、、、。わわっ?」 突然、 素早く立ち上がった水無月さんはキセくんの指を掴み取り、反対の手でピットブルの短い尻尾を摘むと掴んだ先の指をその尻穴の奥深くまでズボッと突っ込ませた。 途端に犬は口を離し、緊迫した事態は一気に収束した。 ─── その後、 事の始末は当事者同士に任せることにして、俺達はバーベキューに戻った。 、、、のはいいけど、 「嫌やなぁ、キセくん。手ぇ洗ってきよし」 あからさまにユキさんが顔を歪ませる前でキセくんは自分の右手を身体から離して肉を頬張った。 「肉は焼き立てが一番なのです。 これで食いっぱぐれでもしたらやってられませんから」 キセくんの親指は立ったまま、 その先は、、、
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