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うめねくんがいれば大丈夫より
◇ 廃油燃料とキャンドル ◇
「野草の天ぷらって美味いもんだな。
蕗や蓬の苦味と塩レモンの相性も抜群、すっかりハマったよ」
─── 早春、
このところパートナーの虎太郎が摘んできた野草と発酵させた塩レモンで天ぷらを食した丑蜜は、台所に食器を下げながら飲み残しの冷酒を煽って言った。
虎太郎は丑蜜を見上げ、ニッと笑った後
使い終わった天ぷら鍋を再び七輪にかけた。
平時なら一度使った揚げ油は処分する虎太郎だが、食用油が手に入らない現在は最後の一滴まで利用するつもりだった。
年が変わってすぐ、
雪解けの庭から顔を出した蕗の薹を見つけるなり後々天ぷらにしようと決め、ある程度摘んでから軽く茹でて瓶に密閉し、未だ凍っている土中に保存した。
それから三ヶ月半が過ぎた四月、
川沿いのあちこちで蓬の鮮やかな緑が目に留まり出すと、虎太郎は『いよいよ天ぷらができるぞ』と片手に持てる限りを摘んで家に戻り、備蓄していた貴重な食用油を開封した。
時期がズレているので、蕗の薹が一度茹でた物なのは仕方ない。
以降、
その他の野草天ぷらに始まり大豆ミートの唐揚げ、床下に貯蔵していた百合根や、ジャガイモを切って皮ごと素揚げしたものなど、料理担当の虎太郎は少量の油であってもなるべく汚さない材料を選んで食卓に並べ続けた。
連日揚げ物が主菜となったとて男二人が飽きることはなかったが、濾してはケチケチと継ぎ足しをし、加熱を繰り返した揚げ油はしかし酸化がすすみ、色的にも限界を迎えている。
「来年も油が手に入ることはないでしょうから、次の天ぷらは早くても初夏あたりですかね」
濾し袋の中の油カスを菜箸で集める虎太郎を丑蜜は可愛くも呆れつつ見やり、笑いを堪えた。
「備蓄は山ほどしてるじゃないか」
「そうですけど、、、」
突然の大規模災害に見舞われた後、世の中は今も油どころではなかった。
今も何一つ手に入らず、家にある備蓄品の中から日々必要なものの全てを消耗し生活しているのだ。
濾して尚茶色い油を見ても未練を顔に残す虎太郎に対し、丑蜜は半ばワクワクした表情で彼がどんな始末をするのかと待った。
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