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復讐鬼っていいな
「おい!」
豪邸に住む大富豪のカメは、復讐鬼が大活躍するファンタジー映画を観ながら、ボディガード兼身の回りの世話役として雇ったライオンに向かって怒鳴りつけた。
「はいっ!」
ライオンは元気よく返事をする。
「この映画のバトルシーンを観ていたら、なんだか復讐鬼になりたくなったぞ! 何か復讐鬼になる方法はないか?」
「いや、ないですよ。だって平和な世の中ですもの」
「平和な世の中には復讐鬼はいないのか?」
「いないでしょうね」
「くそぉ! 平和な世の中め!」
「なにを言っているんですか! 復讐鬼がいない平和な社会で生きているというのは、素晴らしいことなんですよ!」
ライオンは力を込め、鋭い眼光で言った。
すると、カメはライオンの迫力に半泣きになりつつも「すぐにでも復讐鬼になりたいのにぃ。平和な世の中め」と、できる限り小さな声を出して残念がった。
その声を聞き逃さなかったライオンは舌打ちをしてから、「では、復讐鬼疑似体験ゲームをしてみて復讐鬼になった気分を味わうのはどうでしょうか?」と提案した。
「何だそれは?」
カメは目を見開いた。
「とても臨場感のあるゲームなんです。ゴーグルを装着して遊ぶんですよ」
「……そのフワッとした説明じゃよくわからないな」
「実際にやってみますか?」
「え? あるの?」
「はい、ここに」とライオンは水槽の脇にある自分の鞄を口で開けてから、ゴーグルを取り出す。
「なぜ鞄にある?」
「カメさんが退屈しないように、いつも色々と持ってきているんですよ」
「なんていいヤツなんだ! で、これを装着すればいいんだな?」
「はい。装着したら自動でゲームが始まります」
「おお、楽しみだ。じゃあ、ゴーグルつけて」
「はい」
ライオンは前足を使ってゴーグルをセットした。
「おお、リアルだ! いい雰囲気が出てるな。さらば平和な世の中め!」
「そのゲームを終えたら、平和な世の中め、とは言わなくなるかもしれませんね」と言ったライオンの声は、既にゲーム内の世界に入っているカメには届かなかった。
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