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成就のうさぎ
刑事のおじさん、おじさんの好きな人、二人はお月様の使いだよね。だってとってもとってもきれいだし、僕のこと、すぐ見つけてくれたもの。
みんな、あいつらみたいな醜い顔して僕のことなんか全然見つけてくれなかったのに、おじさん達はすぐに、僕を見つけてくれた。
ありがとう、見つけてくれて……弟や妹を見つけてくれて……。
「うさぎ? 」
呼ばれた様な気がして、静馬は鑑識員と一緒に覗き込んでいた寝床らしきものから顔を上げた。
汚れたリネンからは、夥しい量の体液の付着が確認された。その足元の灰皿に、微量の白い粉が付着しており、覚せい剤だと確認されたのであった。
「ヤクの出所は組対に任せよう。生安は立ちんぼやホストの線から、先ずは親の身元の洗い出しだ。組対の丸さんには話をつける」
組織犯罪対策課には、丸川といういぶし銀のエキスパートがいる。とはいえ、叩けば幾らでも埃が出るであろうこの凄腕のマル暴を、静馬は余り好ましくは思っていない。向こうも静馬の事を、生安のオカマだのホモ野郎だのと陰口を叩いて憚らない。ただ、利用はさせてもらうまでだ。
「どうも、市川です……」
公用の携帯で、丸川に要点だけを伝えると、すぐにこの辺りを仕切る半グレ上がりのグループの名を告げられた。
「悠太、西新宿のKJビルだ、応援を連れて向こうで組対の連中と落ち合え。親は拉致された可能性もある、銃を携帯しろよ」
「了解です」
飛び出して行った悠太と入れ替えに、莉子が駆け込んできた。
「近所の方から話が聞けました。ここの大家は7年前に亡くなっていて、相続で揉めたまま放置されているそうです。5年くらい前に女が住み着いて、最近はヤクザっぽい男が出入りしていた様です。女が住み着いた時には男の子を連れていた様で、その時には既に小学生くらいだったそうです」
「なら、うさぎは少なくとも12、13……」
莉子がまだ何か言いかけた時、静馬の私用のスマホが鳴った。加津佐だ。
「ちょっとすまん……」
莉子に断って背を丸める様にして電話に出た。
「どうした、今……」
仕事中だぞ、と言いかける静馬の言葉を遮る様にして叫ばれた加津佐の言葉に、静馬が両目を見開いた。
「すぐ行く……莉子、横山さんと一緒に警察病院に行くぞ」
「は、はい! 」
莉子がパトカーを移動させて車を出せる状態にするまでに、静馬は部屋の中の捜査員と鑑識員に指示を出した。
不気味に輝いていた満月に、雲が群がろうとしていた。
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