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鎮魂のうさぎ
次の満月の夜、静馬と加津佐は花束とうさぎのぬいぐるみを持って花園神社の境内を訪れていた。
社務所には予め断りを入れており、二人はうさぎが倒れていた神楽殿の床下に潜り込み、並んで手を合わせたのだった。
「13歳、だったそうだ」
男と一緒に殺される寸前で救い出された母親の証言で、うさぎは13歳だと判明していた。
「13歳か……僕も静馬さんも、月の光に縋っていた頃だね」
「ああ……」
じっと手を見ていた静馬が、何かを握る様に指を丸めた。
「俺、うさぎの手を握ったんだ、確かに」
「きっとさ、お月様がうさぎの願いを叶えて、魔法の力をくれたんだよ」
「刑事が信じるのもどうかと思うが……俺も、そう思う」
そうであって欲しいと、静馬は月を見上げた。
今日の満月は、あの夜よりはずっと柔らかな光を放っており、見下ろすこの世に何も起こっていないと決めてかかっている様な、ある種の白々しさすら感じるほどだった。
「助けてやれなかったな」
「静馬さん……救急車の中でね、あの子、僕に消え入りそうな声で言ったんだ、『見つけてくれてありがとう、きれいなおじさん』て。静馬さんのことだよね、きっと」
「45のオヤジにきれいも何もないだろうが……な」
唇を噛み締め、潤む目で同意を求める静馬の頭を、加津佐が優しく抱き寄せた。
「あなたは、とてもきれい。そして、とても優しい」
加津佐の声は、しっとりと静馬の心に沁みこみ、昂りそうな心の波を穏やかに鎮めてくれる。
故に、静馬はその声に縋るのだ、素直に。
それを許してくれるのが、この加津佐だからだ。
「……次の満月も、ここに付き合ってくれないか」
「もちろんだよ、静馬さん」
身を寄せながら玉砂利の上を歩いて行く二人の背中を、本殿の石段の上から一匹の白ウサギが見送っていた……。
月のうさぎ・了
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