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佐野より江戸に
次郎左衛門の恋
江戸は元禄にて下野国佐野になる豪農にて総領の次男なるは次郎左衛門といふ!
年老いたる親父殿と総領息子なる身体の弱い長男に変わりて江戸は日本橋に使いに出たるのは年も暮れるが霜月も終わりになろうとしたとのこと。
次郎左衛門は佐野から川沿いと陸路にて江戸に入りしは佐野を出て三日目であった。
供には次郎左衛門が総領地小作人頭を指名にてとのことなりもうした。
江戸は横山馬喰町に宿をとりては日中は親父殿より仰せ使った用事にて忙しくも熟しておった。
粗方の用事を済ませてはいよいよ明日か明後日には下野国佐野に帰りになると、その前に江戸見物と洒落込んだ。
次郎左衛門には見るもの食うもの全てが下野国佐野とは違い全てが煌びやかに見えておった。
特に女子は垢抜け洒落て次郎左衛門は眼を凝らして居るくらいであった。
人形町にて一件の絵草紙屋の大絵の絵草紙に次郎左衛門は刃釘付けになっていた。
供の小作人頭さえも唸るくらいの絶世の美女成れば未だ交わりを知らぬ次郎左衛門にはまるで天女の如くに見えている。
「・・あれはまことに居る女子なるか?」
次郎左衛門は小作人頭に聴き及んだ。
「あれなるは吉原の遊女にて大名道具の太夫にござ候!」
小作人頭は思った・・来春には次郎左衛門は隣村の娘との祝言成ればここで次郎左衛門に恩を売っては行くゝは身体の弱い嫡男に変わりて次郎左衛門が総領となると踏んだ。
「さすれば江戸に来たには随一の吉原にて登楼といきましょうとて」小作人頭が次郎左衛門に恩を売るために言った。
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