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六話 side エレーヌ お母様の一周忌
この日は、白い空に灰色のどんよりした雲が浮かんでいた。今にも雨が降り出しそうな嫌な天気だった。
私は、その空を見ながらもしかしたらお母様が悲しんでいるのかも知れないと思った。一年前に亡くなってしまった母親の墓標の前に立ち、寂しさと悲しさを胸に手を合わせた。
その隣には、妻の一周忌だと言うのに顔を顰めて嫌そうに手を合わせている父親がいた。私は、合わせていた手を離して白い空を仰ぎ見る。何でこんなことになってしまったのだろうと、残念な気持ちを心に抱く。
私の母親は、病弱でほとんど家から出ることがなかった。季節の変わり目には、必ずといっていいほど体調を崩す。ごくたまに、どこかに出掛けようものなら次の日は熱を出してベッドから出られない。
そんな生活をずっと続けていた女性だったけれど、娘の私にはとても優しくて良い母親だった。母親の周りだけ、時の流れが違うかのようにゆっくりと時間が流れていた。
その流れの中で、娘にできるだけの知識を身につけさせてくれた。ほとんどの人は知らないだろうが、母親はとても頭のいい女性だった。
「何もすることができないから、本を読むくらいしかないのよ」とよく言っていた。そうだとしても、母親の知識は素晴らしいものだった。
唯一、私に色々な話を聞かせてくれている時だけが母親の顔が輝いていたように思う。
体さえ丈夫だったら、きっともっと違う人生だっただろう。本来の母親は、きっともっと好奇心旺盛で活発だったのではないかと子供ながらに感じていた。
でも普段の母親は、何も望んでいなかった。望んでいないと言うよりは、自分のことを諦めている女性だった。もっと、やりたい事をやったらいいのにと思った。
ただ、私の幸せだけを願っていただけだった。
母親の人生は、幸せだったのだろうか? 娘として、母親にしてあげられることがもっとあったのではないかと悔恨の念が押し寄せる。
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