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私は、まず時間を確認した。朝の8時だった。ジョルジュは、これからどこかに行くところだった。
「旦那様、これからどこかにお出掛けですか?」
私は、躊躇なくジョルジュに尋ねた。私には、時間がないのだ。一分でも無駄になんてできない。三カ月で、娘のエレーヌを幸せにしなければならないのだから。
「おい、マーサ。さっきからどうしたんだ? 旦那様なんて、僕がいくら言っても呼ばなかったじゃないか。それに、今日はあいつの命日だろ。やっと一年たったんだ。今日はお祝いだって言っていたじゃないか」
ジョルジュが、とんでもないことを口にする。私は、ジョルジュの言ったことを理解した。
そうか、今日は丁度私が亡くなった日なんだ。それにしたって、お祝いって何なのよ! 失礼しちゃうわ。
そしてマーサの口癖を思い出した。何かって言うと、「私の坊ちゃまは」と言っていたことを。
「坊ちゃま、そうでしたね。ちょっと考え事があって、ボケっとしてしまいました。申し訳ありません」
私は、ジョルジュに頭を下げる。
「おいおい何だが今日は、マーサらしくないぞ。本当に大丈夫なのか? たまには休んだっていいんだぞ?」
ジョルジュが心配そうに、私を見ている。こんなに優しく話すジョルジュを、初めて見た気がする。
残念ながら、私に向けている優しさじゃないところが虚しいけれど……。
「大丈夫です。坊ちゃま、遅れてしまいます。さあ、出掛けて下さい」
私は、面倒臭くなってジョルジュを部屋から追い出す。そして、これからどうしていこうかと、暫くジョルジュの部屋で考えを巡らせていた。
考えを纏めると、よしと気合いを入れた。
私は、自分の体をまじまじと見つめる。力が有り余っている。マーサは、生前の私の年よりも上で既に40を超えている。
だけど、生前の自分の体とは比べ物にならない程健康だった。倦怠感が全くない。この体ならいくらでも動けると思った。
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