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母親が亡くなってから、私の生活は一変した。妻にも娘にも無関心だった父親が、自分の愛人を屋敷に招き入れたのだ。しかも愛人だけではなく異母妹も一緒に。
ブルックス家は、私の母親であるフランシールの家だ。婿として入った父親が、愛人を家に招き入れるなんて非常識にもほどがある。
私は、怒りを露わにして父親に抗議をしたが聞き入れてもらえなかった。生前母は、父親のことを悪く言わなかった。こんな私と結婚してくれて感謝している、ずっと我慢させていて悪いと思っていると憂いの顔を浮かべながら私に言っていた。
だからか、こんな父親でも悪く言えない。愛人と異母妹と父親が、三人で仲良くしている様子を見ていると私の方が邪魔なのだと思えてくる。
私は部屋を追い出されて使用人部屋に移されても、使用人として働かされても仕方がないと思った。こんな状況が良い訳ないのはわかっている。でも、楽しそうに暮らす父親を見ていたら、それを壊すのはかわいそうだとも思う。
私は、父親を追い出して不幸になって貰いたい訳じゃ無い。ただ、みんなが平和に心穏やかに暮らせたらそれだけで私は充分なのに……。
どうすればいいのかわからなくて、理不尽な生活が一年も続いてしまった。
「帰るぞ」
母親の墓石を見ながらこの一年間のことを考えていた私に、父親が声をかけた。私は、思い切って父親に訊ねた。
「お父様、これからどうするおつもりですか?」
父親と二人きりでいられるチャンスなんてそうそうない。屋敷に帰ったら、使用人としての仕事が待っている。
私自身、今年はデビュタントが控えている。デビュタントに出席することで、一人前の貴族女性として認められる。同時に、成人としてみなされる。
逆に言えば、デビュタントに出席しなければ貴族社会で生きていくことができない。勿論、結婚することもない。
本当なら、もう準備を始めていなくてはいけないのに何もしていない。父親は、私を一体どうするつもりなのだろう?
このまま、一使用人として終わるのだろうか? もし本当に父親が、そう考えているのなら流石の私も考えなければいけない。
「何がだ?」
父親が、ぶっきらぼうに答える。本当にわかっていないのか、話をはぐらかしているのか私では判断できない。
「アンジェリカ様とプリシラのことです」
私は、父親に確認する。あの二人を、このまま愛人としてブルックス家に住まわせるのか聞いておきたかった。
「どうもしない。今までずっと我慢させて来たんだ、表に出してやって悪いことなんてないだろ!」
父親が、鋭い視線を私に向けた。
「お母様の一周忌も終わります。再婚されると言う意味ですか?」
私は、はっきりさせたくて更に質問を重ねた。
「それは……。まだ、考えている」
父親が、意外にも言葉を濁した。
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