プロローグ 

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 お父様が、一人娘の私を可愛がっていないことなんてとっくに気づいていた。でも、お母様や屋敷の使用人たちが、私に愛情を注いてくれたので寂しくなんてなかった。  それにお母様は生前、お父様のことを悪く言うことがなかった。だから、父親ってこう言うものなのだろうと思っていただけだった。  まさかお母様が亡くなった途端に、婿入り先の屋敷に愛人を連れてくるなんて……。そんな非常識な人だったなんて思いもよらなかった。  怒りよりも、悲しい気持ちの方が強い。私は、自分の父親が愛人やその娘を可愛がってたって別によかった。だって、娘の私から見たお父様は、魅力なんてなかったから。物心ついた時から、父親には距離を感じていた。  だから私は、今までと同じ生活を送らせてくれれば何だって良かったのだ……。だってこのブルックス家を継ぐのは私しかいないから。  この国の法律だと、家を継ぐのは男女に関係なく直系の子供のみ。だからお母様の実家であるブルック家の当主は、お父様ではなくお母様だった。  お母様が身体が弱く、当主としての仕事ができないから父親が当主代理として家を切り盛りしていた。父親は、私が成人するまでのつなぎでしかない。  お母様が亡くなってしまったことはもう仕方ない。だからお父様が、ずっと一人でいる必要なんてないから、新しい幸せを手に入れてもいいと思う。  ただ私を、どうしてこんな風に扱うのかそれだけが信じられなかった。  私は、そんな寂しくてやるせない気持ちを空の上に向けた。  その光景を、空の上から見ていた人物がいた。一面真っ白な雲の世界で、湖に映る娘の姿を長いことじっと見つめていた――――。  
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