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神様が、やれやれと言わんばかりに呆れている。
「だいたい想像はつくけど、みんな自分の魂を消失させてまで戻りたいと言う人はいないよ?」
私は、神様の目をしっかりと見つめて言葉にした。
「私は、きっと生まれ変わっても後悔します。その後悔は、魂に刻み込まれてきっと永遠に幸せになんてなれません」
神様も目を逸らすことなく、私の思いを受け止めてくれた。
「そこまで意思が固いなら仕方ない。憑依できるのは、最高でも三ヶ月だよ。憑依する体の魂は、精神の奥底に眠らせて君の魂を入れる。時間が来た時に、君の魂はそのまま消えて無くなるからね」
私は、良かったと喜ぶ。三カ月、思ったよりも期間が長くて嬉しかった。三カ月もあれば、絶対に何とかしてみせる。
私は、拳を握りしめて決意を新たにした。
「で、誰の体に憑依したいの?」
神様が、当然だろう質問をした。私は、ずっと考えていた人の名前を口にする。
「マーサ・アーレントでお願いします」
神様が、にやりと意味深長な笑いを浮かべた。
「なるほど。なかなかいい人選だと思う。じゃー、君に会うのはこれで最後だ。残りの三カ月、精一杯生きなさい」
神様はそう言うと、私の頭に手を翳した――――。
次に目を開けた時には、見知った顔の男性にジャケットを掛けてあげているところだった。
私は、一瞬何が起こったのか訳が分からずに手が止まってしまう。暫く動かなかった私に、痺れを切らした男が言った。
「おい、マーサどうした? 手が止まっているぞ?」
ハッと我に返った私は、手を動かしてジャケットを男にかけた。その男とは、紛れもない私の結婚相手だったジョルジュ・ブルックスだった。
私は、ジョルジュにジャケットを掛けると部屋の隅に移動した。まさか、こんな日常の最中に憑依させるなんて神様はなかなか意地悪だ。
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