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“ネタ”明かし
鈴木は腕時計を見た。
「ご、ごめん。お、俺、そろそろバイトが…」
上島も「私、子供が…」と言い出した。
それでお開きにすることにした。
高林と鈴木はドリンクバー、上島は野菜ジュースしか頼んでいない。
年長の鈴木が奢ろうとしたが、上島がそれを固持し、結局三人バラバラに支払う事にした。
「そ、それじゃ、は、話聞いて、てくれて、あ、ありがとう」
鈴木はそう言うと、浜松駅の方に向かって歩き出した。これから駅ビルの中にあるレストランで皿洗いの日雇い仕事らしい。
「私、買い物、あるから…」
上島はいつものように、あの激安スーパーで食材を買い込むようだ。
「呼んでくれて、ありがと」と短い謝辞を述べて、鈴木とは逆方向に歩き出した。
高林は二人が見えなくなると、出てきたファミレスのあるビルの階段を再び上がりだした。
そして、2階にたどり着くと、また店内に入った。
店員は少し戸惑いながら、彼を席に案内した。
着席すると、高林はすぐに一番高いハンバーグセットを頼んだ。ドリンクバーを頼もうとしたが、それは止めておいた。
さっき飲み過ぎて、腹が重い。
そして、スマホを取り出して、電話をし出した。
「あー、俺っす。話、聞けましたよ。しかも、なかなか狙い目じゃないすかね?」
高林はそこでニヤニヤと笑った。
「一人は男で病気で口が不自由みたいっす。しかも元“公務員”…じゃないけど似たようなもんでした。もう一人の女は、シングルマザーって奴です。…しかも、二人ともヤクショとかから、金、出るみたいです。…その元公務員みたいな奴が言ってたんで、固いんじゃないっすか?」
高林はそこで、声をひそめた。
「…しかも、二人とも家に爺さんも婆さんがいるみたいですよ。男の方は独り暮らしで、実家には居ないみたいで。女は、昼間は仕事みたいで、家には婆さん一人じゃないっすか?」
そこに高林の注文したハンバーグが到着した。
彼は店員の顔を見つめ、電話の内容が聞こえないように小声にした。
「…頼みますよ。お金の事。ここまで、ネタ出してんすから。細かい事? それはまたおいおい聞き出しますよ。今、仲良くなれましたし。…やっぱりスマホはいいすね。便利っすわ(笑) あの区役所の人に持たされた感じですけど、誰かと連絡できるから楽です。…こうして“先輩”とも話せてますしね(笑)」
高林は片手に持ったフォークで、ハンバーグをきりつけ、その一塊を刺すと口に運んだ。
「…まさか、あの噴水で見かけた奴らをこうしてネタに出来るなんてね。それで儲かるんすから、凄いっすよ。へ?、罪悪感? …あんま無いっすよ。言ったじゃないっすか?、『僕は大変なんです』って(笑)」
【了】
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