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子供を産む前に彼女は、鈴木とは別の市内にある病院で事務として働いていた。
総合受付や、その“入院受付”にいた事もあった。
そして、そこの上司と不倫関係になった。上島は独身だったが、向こうには家族がいたのだ。
少しして、彼女は妊娠した。
彼女は出産する気持ちになった。
そうなると、急に相手の態度が変わった。
ある日、呼び出され、男性から何度も出産の意思を確かめられた。
上島は生んで、一人で育てる気持ちを固めていた。
そうすると、彼女の担当が総合受付から院内の一番端にある耳鼻咽喉科に変わった。
また、事務職員の中で嫌な噂話をされ、陰口を叩かれるようになった。
彼女は気にしないように気丈に振る舞ったが、子供を出産した後、すぐに病院を辞めた。
相手は認知こそしてくれたが、もう彼女に関わりたくないようで、彼女も、もうそこに居れなくなったのだ。
こんな話は、年配の鈴木には理解できそうだったが、高校生の高林にはわからないと思い、上島は簡単に済ませた。
その後、上島はアルバイトをしながら、幼い我が子を育てるシングルマザーになった。
喫茶店のウエイトレスや量販店の店員、倉庫の事務などをして稼いできた。
始めは浜北区のアパートに子供と二人で生活していたが、とても維持できずに母親のいる実家に戻った。
シングルマザーの生活は大変だった。
最近になるまで、よく熱を出した。その度に彼女はアルバイトを早退するしかなかった。
どこでもそれは“良い顔”をされなかった。
また、実家に戻ったことで子供の世話を母親に頼めるようになったが、子供と母親の食事や世話は彼女が担った。
今年の5月、彼女が働き出したのが、あの百貨店のパートだった。
彼女は耐えた。
基本パート優先。子供の事は極力、母親に頼んだ。誰か休むと、その代わりに出勤した。1日でも出勤日を増やして欲しく、彼女は頑張った。試用期間を終え、正式採用されると思い込んでいた。
それがまさかかの“解雇”だった。
子供の事は二の次にしていたが、それでもどうしても母である彼女が休まないといけない日がある。
それが原因なのかはわからないが、他に落ち度が思い当たらなかった。
そして、次に見つけたのが、その百貨店の地下にある、あのスーパーのパートだった。
彼女はそこでも頑張っていた。
年配パートにイビられても、さわやか“に思えた”店長に無視されても、耐えた。
とにかく、子供と母親と自身の暮らしを“確保”しなければならない。
今まで病院関係の事務職を探すことはなかった。
もうあんなところは懲り懲りだった。
それにもしかしたら、違う病院で勤務しても、彼女を知っている者がいそうな気がしていたのだ。
彼女はあの噴水を見て、いつも思っていた。
(…この生活がいつまで続くのか?)
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