2人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
朝、起きて三人分の朝食を作り、自身の弁当を積める。母親の昼食も簡単に作っておく。そして、帰宅すると、また三人分の夕飯を作り、家事を済ませる。
気が付いたら深夜だ。
母親も手伝ってくれたりもするが、昼間に子供の世話を頼んでいるので、任せ辛い。
そして、また朝が来る…。
また朝食と弁当を作り、あのパートへ向かい、ベテランパートに散々と嫌味を言われる。
その繰り返しだ。
ちょうど、この噴水の水のように、流れ出しては、また池の中を巡り、また上から出る。それを繰り返していくだけ。そんな日々だ。
育児や家事が嫌ではなかった。
ベテランからの嫌味は堪らなかったが、別に聞き流せば良かった。
だが、それはいつまで続くのか。
もし、今のスーパーのパートを辞めたら、また別のパートを探すだけだ。
そして、また“いつもの生活”になる。
泣き叫びそうな心を抱え、また生活をしていくしかない。
子供はいつか大きくなるだろう。
そうなっても、彼女の生活は変わらない気がした。
もう過去の場所(病院事務)には戻りたくないし、戻れない。
ならば、自分はずっとこんな生活が続くのか。
毎月の支払いやお金に負われ、生活を維持し、働き、また稼ぐ。そしてまたお金を支払う。
余裕などどこにもない。
そんな生活が永遠に続くのか。
そう思って呆然としていたら、同じように噴水を眺める人間がいた。
(…この人も?)
それは違っていたが、上島はそういう感覚で鈴木を見ていた。
多少の興味はなくもなかったが、それよりも(…このおじさんも“どうしようもなくなっている”のかな?)と思っていた。
「あ、あの、込み入った事をき、訊くんですが?」
話をして、鈴木同様、少しすっきりした上島に、その鈴木が質問した。
「お母さんは、は、ね、年金とか貰ってます、す?」
「…はい、貰ってますが?」
「で、では、じ、児童扶養手当は、は?」
「…いや、あれは年金を貰っている世帯には出ないんじゃ…」
実家に戻る際、上島はその事で少し悩んだ。
幼い子供の面倒は大変で、母親の補助は欲しい。
だが、同居すると児童扶養手当がなくなってしまう。
「そ、それ、たぶんですけと、ヘイキュウの対象に、に、なりますよ、よ?」
「ヘイキュウ?」
上島は驚いた。何の事なのか。
「お、お母さんの、も、貰っているね、年金の額にもよりますけど、そ、それは申請すれば、あ、合わせて貰えるか、可能性がありますね、ね」
「…そうなんですか?」
「ひ、ひょっとしたら、ど、どちらかや、両方、げ、減額さ、されるかもしれないですけど、大丈夫じゃないかな?」
「…そんな話は、母からは一度も」
「そ、それは仕方ない、で、ですかね。年金受給者、か、から申請しないと、と、併給は検討されませんから…」
「…」
「じ、児童手当は公的な、な、ほ、補助金の中で、ゆ、唯一、年金と一緒にも、貰えるお金ですからね、ね。一度、年金事務所とかでか、確認したら良いですよ。お、俺は担当が、違ったんで、そ、そこまで詳しくなんで…」
上島は気になった。
「担当? …鈴木さん、何でそんなに詳しいんですか?」
「僕も貰ってますよ、児童扶養っってやつ」
高林がまた口を挟んだ。
「あれ、手続きとか色々と大変なんすよね? 僕は区役所の人にお任せしてましたけど…。親の印鑑とか必要でしたね」
「き、君、お父さんいないの、の?」
鈴木は、高林に話しかけられてからのやり取りから、彼に母親がおらず、祖母の世話を一人でしている『ヤングケアラー』とは認識していた。
父親は仕事で忙しいと思っていた。
「お父さん、あんまり家に帰って来ないんです…」
それは『あんまり』ではなく『ほとんど』なのだが。
「それで、鈴木さんって、何で“そういう事”に詳しいんすか?」
高林が話題を変えるように、鈴木に尋ねた。
最初のコメントを投稿しよう!