激安スーパー

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激安スーパー

 少年はスーパーに向かう事にした。  その前を男が歩いている。 (ひょっとしたら、あのスーパーへ?)  歩む方向が同じなのでそう思ってしまう。  そして、少年の勘は当たっていた。  男は遠州鉄道の新浜松駅の前を通り、横断歩道を渡ると、モール街を歩いてザザシティの西館へ向かう道を左に折れた。  西館の地下に少年がいつも日用品を購入する激安スーパーがあった。  男がその隣の競艇の場外売り場に行かないのであれば、少年と行き先は同じだった。  男は西館地下への階段を足早に降りると、場外売り場を見ながら、スーパーのある自動ドアに向かった。  その後を少年が付いていく。  二人の距離は、人一人分しかない。  手を伸ばせば、男のリュックに手が届きそうだった。  少年は思った。  (話かけてみようか?)  何故、いつも噴水を眺めるているのか。  あの女性は知り合いなのか。  何故か、気になっていた。確かめずにはいられない気持ちになっていた。  平穏を取り戻しつつある自身の日常に、“異物”のように引っかかっているあの二人の事が気になっていたのだ。  以前のように暗い気持ちなら、こんな発想はしなかっただろう。  男は悪い人には見えない。いきなり話しかけても怒らないと思えた。  「…あ、あのー」  恐る恐る後ろから声を出したが、男は気付かない。振り返りもしない。そのままスーパーの方へ歩いている。自信が無さそうだに背中を丸めている。  「あ、あの、すいません!」  少年は少し大きな声を出した。  男が肩を震わせ、振り向いた。  「へ、へ?」  驚いている。当たり前だ。  「い、いきなりすいません。…あなた、さっき駅前の地下噴水を見ていた方ですよね?」  「…は、はあ?」  男は声に吃りがあった。そして、細い目を大きく開いて驚いていた。      「こ、これ、あげるよ」と男が缶コーヒーをくれた。一つ33円の安物だ。一緒に買ったから知っている。2つ買っていたので、(何故だろう?)と思ったが、少年に奢る為だった。大人の見栄、という奴か。  男に話しかけると、かなり驚いていたが、話をしてくれそうだった。  しかし、「さ、先に、か、買い物して良い?」と言われ、少年も同じ目的があったので一緒にスーパーで買い物をした。  男が買ったのは、格安のカップ麺と、割引シールほ張られたパン、さらに19円の焼きそばの蒸し麺を2つ。それに今くれた缶コーヒーを2つだった。  少年は惣菜とトイレットペーパー、焼きのりと 納豆を買った。  二人とも1000円に満たない買い物だった。 そのまま、店を出て、地上に戻ると西館入り口側の丸い広場の縁石に座った。ここには有名なコーヒー店があるが、一杯300円以上する。  二人に(特に男に)、そこに入る余裕はない。
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