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1986年
1986年。蒼子は小学生だった。
世間はハレー彗星に沸いていた。75年に一度の周期で地球に近づくという星。
75年。一生に一度見れるかどうかの流れ星。運が良ければ、二度見ることができるかもね。
父と母と蒼子と紅子は、それぞれコートのポケットに手を突っ込みながら、空を見上げた。
あれだけ世間で騒がれたわりに、その空が開けた絶好のポジションには、蒼子の家族のほかには人っ子ひとりいなかった。
大きな宇宙に、家族四人だけが取り残されたような気がして、蒼子は心細さを隠せなかった。
その日、ハレー彗星を見られたという記憶はない。
ただ、蒼子たち家族は随分長いこと、夜空を見上げて立っていた。
どうもあとから調べてみると、この日はハレー彗星を観測するのに適したコンディションではなかったらしい。
蒼子たちが見られなかったのも、当然かもしれない。
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