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父の言葉
「蒼子、紅子。次にハレー彗星が地球に近づくときは、お父さんもお母さんももう生きていないんだよ。」
父はそう言った。ポケットに手を突っ込みながら。
父はどれだけの確信で言ったのだろう。年月でいえば、確かにその通りだ。でも、自分がこの世を去ることを、どれだけの確信で受け入れられるものなのだろうか。
蒼子は恐ろしくてたまらなくなった。四人家族でぽつんと夜空の下に立っているだけでも不安なのに、お父さんもお母さんもいつか死んでしまうなんて、到底受け入れられることではなかった。
そんな恐ろしい現実が、決して訪れないように願った。
蒼子は、家族四人で手を繋ぎたかった。でも実際は、それぞれがコートのポケットに手を突っ込んだままでいるのだった。
夜風が吹いて、茶畑をさざ波のように吹き抜けた。
「もうだめよ。そろそろ帰ろっか。」
母は微笑んだ。その顔は、がっかりしているようには見えたけど、微塵の不安も浮かんでいなかった。
「紅子。」
母は紅子に手を差し出した。彼女は幼いから、半分眠りかけてふらふらしていた。
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