後編

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某日、展示会会期中に蒼の絵を鑑賞している男がいた。 ——こんな目立たないような絵を描いとんのか……。 「もう少し派手な人目に付くような絵を描きゃいいものを……ったく」 「お客様、周りの方のご鑑賞を妨げる行為はお控えください」 「あ……ああ」 つい館内で声を出して息子の文句を垂れ流してしまい、案内人に注意される。声をかけられたついでに男は展示会のルールを聞き返す。目録から切り取った投票用紙を片手に案内人に詰め寄る。 「これ、出ていくときに書いてあの箱に入れればいいんだろ? 一人一票だけか?」 「はい、左様でございます」 男は蒼の絵画に一票入れて会場を立ち去った。 投票用紙には「美津島広重」と書かれていた。
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