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後日、展示会の搬出作業に藍汰が顔を出してくれた。
搬入するときと同じように成澤がまた車を出してくれてふたり仲良く乗車している。
「絵を取りに行くだけなのにいいの?」
「いいんすよ。俺、蒼さんの活躍これからも見守りたいんで。もう一度あの絵見たいですし」
後部座席で楽しそうに話すふたりを成澤が運転しながらっ黙って見ていた。
「そろそろ着きますよー……」
——なんか仲良さそうだなあ。
藍汰と成澤はこの日初めて会う。お互い気さくに一言挨拶を交わしただけである。
会場に到着した。搬入口に車を停車させたあと出展者であることをスタッフに確認してもらう。俺は授賞式の件でスタッフに呼び止められた。
藍汰と成澤は俺より先に展示室に向かった。展示した蒼の絵画を二人がかりで慎重に取り外す。搬入するときと変わらず、絵画をビニールで包んだ上から包装紙を被せた。
「柿島さんでしたっけ? いつから美津島先輩と付き合ってるんですか?」
絵画を包む作業をしながら成澤が藍汰に話しかける。
「付き合ってるって……え? 付き合っ……」
思わず遠くにいる蒼の顔を二度見して耳を疑った。
「美津島先輩、あなたみたいな男がタイプなんですね」
成澤は退屈そうな顔をして軽くため息をついた。
「先輩、俺のことなんとも思ってないんだろうなあ……。なんかあなたのことが羨ましいです」
「そりゃ……どうも」
——もしかして蒼さんのこと好きなのか?
藍汰は成澤を少し警戒していた。
スタッフと話が終わって戻ると藍汰と成澤が互いに黙々と作業を進めていた。それを見て俺は一言呟いた。
「ふたりとも……なんかあった?」
特別なにもなかったと言いたいところだが、藍汰の顔にはなにか書いてある。
「俺、アトリエまでついてっていいっすよね?」
「別に構わないけど……成澤は?」
「俺は蒼さんの絵画アトリエまで運んだらすぐ帰ります」
「うん、わかった」
搬出後の車内はなんだか緊張感が漂っていた。
せっかく俺はあの絵画で大賞を取ったのに藍汰は窓の方を向いて沈黙を続けている。成澤も一言も喋らず運転に集中している。この重々しい空気を変えなければ。
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