茜という人

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 大和の部屋。  部屋に入ると、先程会った女性の事よりも、さくらは部屋の中を埋め尽くす赤ちゃんの玩具の量に驚いた。  以前来た時は、あまり物が無いシンプルな部屋だったはず…。  今は、カラフルな柄の箱が何段にも積まれ、子供用品店のお店の名前が書かれたビニール袋が、縛られたままいくつも置いてあった。  「…この玩具って、…まさか、買ったの?…こんなに…?」 さくらは、思わず声を上げた。  大和は少し照れくさそうに、 「なんか、つい…」 と答えると、キッチンでお茶を用意してくれた女性が、 「私もこの部屋来た時、結婚もまだなのに、バカじゃない?って思ったわ」 と話しながら、テーブルに運んできた。  「…ありがとうございます」 さくらは、その女性に動揺しながらも、入れてくれたお茶のお礼を伝えた。  「…俺の姉、姉ちゃんなんだ」 大和がさくらにそう話すと、さくらは戸惑った。 そんなさくらを見ながら、 「さくらと一緒になりたいって思ったら、姉ちゃんはずっと会ってなかった人だけど、さくらに会わせたいって思ったんだ…」 そう大和が言葉を続けた。  お姉さんがいるなんて、弥生達からは聞いていない…。  大和からも…。  戸惑うさくらを見ながら、 「私、(あかね)っていうの。大和の3つ上の姉よ。」  そう言って微笑む茜。  さくらは、 「先程はすみませんでした。大和さんの彼女かと…」 そう話すと、大和は、 「俺、ほんとにさくらだけだから…」 そう言って肩を落とした。  「…あんた、相当遊んだのね。まぁ、信じてもらえないのは仕方ないじゃない」 そう言って茜は笑った後、 「まぁ、私よりまともだけどね…」 そう言って黙ってしまった。  「お父さんとお母さん、元気?」 わざとらしく明るい声で茜が大和に問いかける。  「気になるなら、自分で聞けよ」 大和が不貞腐れながら答えると、 「…ん、無理かな〜、やっぱりさ」 と、茜が答えた。  「18歳で40以上年上の男と駆け落ちしてさぁ…、未だに親に会いに行けてない。これが子供が出来てたら違ったでしょうね…。なんかね、歩み寄るタイミングが分からなくて、無くてね…。結局こんなに時間がたっちゃった…」 そう言って、茜は寂しそうな顔をした。  「旦那は何も言わないのかよ」 大和がぶっきらぼうに問いかけると、  「………、亡くなったのよ。病気で」 と茜が話した。  大和がそれに驚きながら、 「はぁ?いつだよ!」 と、声を荒げて尋ねると、 「…5年くらい前かな〜。でね、独りぼっちだし、頼る人もいなくて…、私ねぇ、鬱になっちゃって、大変だったのよね〜」  そう言って笑う茜に、 「ふざけるな!何で頼らねえんだよ!」 大和が怒鳴った。  そんな大和の腕をそっとさくらが掴む。  冷静になれなくなっていた大和は、そんなさくらの行動に落ち着きを取り戻した。 「ちょっと頭冷やしてくる…」  そう言って大和が出ていった部屋の中、茜がさくらに声をかけた。 「ごめんね。こんな姉で」  その茜の言葉に、 「彼女じゃなくて、良かったです」 と、微笑むさくら。  茜は、微笑むさくらを見ながら、 「大和が女の子に本気になれなかったのは、私のせいかもしれない…」  そう呟いた。  さくらが茜を見つめる。 「本当に修羅場でさ。あんなに温厚な親と怒鳴り合いよ。今でも信じられないくらい激しくね。それを大和は見ていた。本気の恋が許されない恋になるのが怖かったのかも…」 そう話した後、 「それとね、親に会うのは、ほんとに怖い。娘じゃないって、時間がたった今言われたら、耐えられない…。だから連絡できなかったの…」 そう言って、茜は黙り込んでしまった。  そんな茜を見て、 「大和さんの事は分からないですけど、弥生ママと拓海パパは、きっと待ってます。見ず知らずの私を居候させてくれたのも、きっと茜さんと重なる所があったからだと、私は思います。もしかしたら、茜さんにしてあげたかったことだったかもしれません。…茜さんさえ良ければ、私と一緒に帰りませんか…?」  さくらがそう伝えると、 「でも…」 と茜はためらった。 「ほら、私妊婦だし、怒鳴ったりはしないはずです。それに、赤ちゃん産まれるとき、茜さんにも居てほしいです」  そう言って、さくらが微笑むと、 「…ありがとう」 と、涙を流して茜が笑った。 「よし!勇気を出すか!」  そう言って立ち上がる茜。  玄関へ向かうその後ろ姿を見つめながら、 『皆が幸せになりますように…』  そう、さくらは願っていた。  お腹をそっと撫でながら…。
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