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茜の過去
リビングのソファに、茜に寄り添うように座る弥生。
弥生の隣には拓海が座り、向かい側に、さくらと大和が座った。
さくらの入れたお茶の入った湯呑みを大事そうに両手で包みながら、茜が口にした。
その様子を、さくらたちは黙って見守っていた。
『何から話せばいいのか分からない…』
そんな想いが、茜の中にも弥生の中にもあった。
「ここに来るのが…、怖かった」
静かに茜が語りだした。
茜のその言葉の続きを、皆黙って待っていた。
「ずっとね、一人が辛くてね、ずっとね、お母さんやお父さんのこと考えてた」
そう言って、茜は涙を流した。
そんな茜の背中をさすり、弥生も泣いていた。
「啓太さん…、あっ、夫ね。啓太さんとも会いに行こうかって話てたの。長く一緒にいる姿を見せれば、幸せな姿を見せれれば、分かってくれるって…。でも、きっかけがなくて、ためらっている間に、啓太さんが病気になって…、あっという間に居なくなっちゃった…」
そう話した後、
「啓太さんの家族にも反対されてたから、亡くなったとき、お通夜もお葬式も私そばに居させてもらえなかったの…。お墓の場所も知らなくて、今会いたくてもお墓に会いに行けないの…。それが…、それが…、辛い…」
と声を震わせながら話した。
その後、弥生の顔を見つめながら、
「お母さんやお父さんを悲しませて、本当に申し訳ないって思うけど、彼と過ごしたことは後悔してない。今辛くても、苦しくても、彼に会えた事が、私の幸せだったの」
そう、訴えかけるように茜は言葉にした。
弥生は、茜の言葉を聞いて、
「味方になってあげられなくて、ごめんね…。そばに居てあげなくて、ごめんね…。親として駄目だわ…。子供が辛い時、何もしてあげられなかったなんて…」
そう言って、顔を両手で覆いながら泣いた。
そんな弥生の肩を優しく抱きしめる拓海。
「これからは、一緒に居よう」
拓海がそう言って微笑むと、茜も泣きながら微笑んだ。
茜と弥生と拓海の、穏やかな空気に包まれた姿を、大和とさくらは向かい側から見ていて、泣きそうになりながらも、静かにほほ笑んでいた。
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