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機械の作動音が聞こえたあと、かぐわしい香りとともにコーヒーカップを手にした男が姿を見せる。目の前に置かれたソーサーの淵には、ご丁寧にスティックシュガーとポーションミルク、スプーンが添えられていた。
「どうぞ……俺が入れたのなんて口付けたくないかもですけど」
少し目をすがめるようにした苦笑いは、よく見慣れた表情だった。
「いえ、いただきます」
ブラックのまま一口飲む。高級ホテルのエグゼクティブスイートだけあって、エスプレッソマシーン完備どころか、こだわりの豆を使っているようだ。
「この度は、大変申し訳ありませんでした」
カップを戻すのを見計らっていたように、男はそう切り出して頭を下げる。
「申し遅れました」
男の謝罪を無視するような形で、ジャケットのポケットから名刺入れを取り出し一枚抜いた。
「お初にお目にかかります、冴島と申します」
テーブル越しに両手で差し出すと、向かいの男が片手でそれを受け取る。
「ほんとに弁護士さんなんですね」
冴島のジャケットについたバッジに一度視線をやってから、男は冴島の目を見てきた。その視線から逃れるように、再びカップに手を伸ばす。
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