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「申し訳ありません」
「あなたは……以前から随分と交友関係が派手だったようですね。メディアが伝えるあれらの情報も事実ですか?」
その質問に男は軽く目を見開いて、さっきと同じように苦く笑った。
「否定はできません。ただ、週刊誌の記事は捏造もあるので、すべてが事実ではないです」
冴島は銀縁の眼鏡のブリッジを押し上げて、気持ちを整えるように小さく息を吐いた。
「交友関係が盛んなのは個人の自由です。法にふれることがないのであれば、咎められることではりません。ただ……」
「そうですよね。家庭のある人はダメですよね」
冴島が言い終える前に、矢乃は何度も頷きながら答えた。
遮られる格好になって、冴島は本来伝えようとしていたものとは違う質問を口にする。
「矢乃さんは、妻が既婚者とご存知なかったのではないですか?」
「それはそうですね」
「そうした事実が立証できれば、たとえ私が慰謝料を請求しようが、あなたが支払う義務はありません」
矢乃は目を丸くして、冴島を凝視した。だけどそれは一瞬で、すぐに自嘲的な微笑に変わる。
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