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「失礼しました、踏み込み過ぎた発言でした」
わずかに早口になった声で告げて頭を下げると、矢乃は「いえ」と答えた。
「差し出がましい真似をして申し訳ありません」
もう一度頭を下げてからゆっくりと矢乃を窺うと、虚をつかれた様子で冴島を見ていた。
「なんか不思議な人ですね。今日は俺、罵詈雑言の嵐を覚悟してここに来たんですけど」
報道後、記者の取材申し込みとほぼ同時に、矢乃が所属する事務所の顧問弁護士からも連絡があった。冴島に訴訟を起こさせないための、謝罪の意思を含めた迷惑料支払いの申し出だった。
冴島はその申し出を一旦保留とし、矢乃薫本人との面会を要求した。
「なんだろ、まるで俺の心配してるみたいな感じがして……さすがにそれは自意識過剰過ぎか」
思わずといった風に笑みをこぼす矢乃は、テレビの画面越しでは見たことのない顔をしていた。
冴島がその衝撃に肩を竦めたのと同時に、ポケットに入れていたスマホが振動する。
「少し失礼します」
慌てて立ち上がり玄関がある方へ移動する冴島の背に、「どうぞ」と声が掛かる。
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