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だからなのね、香りもかすかに芳醇で。
身体がどんどんのぼせ上って、本当に私、どうにかなってしまう……?
『ユニヴェール、私は夜が明けたら北方に出立する』
『え……?』
その落ち着いた声に、嫌な予感が背を走った。
この方は王子であることよりも、将軍という立場にご自身を重く置く。まだ出会って日は浅いけれど、私は彼の信念を充分に思い知った。
だから、彼の言う出立というのは。
『エリヴァーガルとの小競り合いなど、近年はままあることなんだ。だから今度のもそう深刻な紛争ではない』
例の事件で面子を潰されたとする敵国の、ガス抜きのための強襲を、海岸線で食い止めるための出兵だという。
『密偵の遺体とはいえ、祖国に帰してやりたいと思うだろう? こちらとしては一筆添えて丁重にお返ししたつもりだが、宣戦布告としか受け取られないんだよな』
女王へ……手紙を?
ううん……、密偵を暴き、正当防衛とはいえあの顛末だ。向こうには攻め入るのに十分な大義名分を与えてしまった。
私はワインに浸かっているというのに、血の気が失せるような感覚を得た。
うつむいた私を、彼は訝し気にのぞき込む。
『どうした? 気分でも』
この不安を打ち明けてもいいかしら……。
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