あなたへつなぐ運命の青い糸

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あなたへつなぐ運命の青い糸

『あなたが心配です。戦地に赴くことは、あなたにとって日常茶飯事かもしれないけれど。妻の私は、慣れなくてはいけないことなのでしょうけど……』  そんな、失礼にも、弱気で私本位な発言に。  彼は一呼吸おいて、こう(こぼ)すのだった。 『正直に言ってしまえば、私だって怖いんだ戦場は』 『え?』  いつも堂々と、前線へでも奮って飛び込んでいく方だと想像していた。 『どんな勇将でも、そんな瞬間はある。葛藤もある。戦の理由なんて元を辿れば分からない。しかし上に立つ私が怯えていたら示しがつかないし、殺さなければ殺されてしまう。人の命を奪うのも恐ろしいが、何より自分の命が惜しい』  そうね、男であっても怖いものは怖いでしょう。同じ人間だもの。  この人は幻獣ではなくて、こんなに確かな温もりのある“人”であって……。 『特に、君を娶った今は、遠くで死ぬわけにいかないからな』 『今まであなたが独り身でいらしたのは……』 『いつ死んでもいいように身軽でいたかった。妻を娶ったらいつも一緒にいたくなってしまう』 『他の王家の方々は、まず戦場に出ることなどないですのに』 『死ぬのは怖いが、城で政務をこなすよりは外に出るほうが性に合っててさ。そして外に出れば出るほど、このままではいけないって思いが募るんだよ。この世の中を平和(たいら)にしたいって』 『だからノルンの壁を壊したんですね』  そんな思い切ったこと、もしかしてこの方の独断ではないかしら。 『ああ。だから責任取って、ウルズからの花嫁を引き受けようと思ったんだ』  まったく、律儀な人ね。 『でもさ、聖堂の祭壇前で君のヴェールを上げた時、“ああ俺、引き当てた!”って……』  ん? 引き当て、た?  ちょっと喋りすぎたか、と焦った表情(かお)をする彼。凛々しいお顔立ちがほころぶと、狼というより人懐こい犬のようにも見えてくる。 『君のこの、マドンナ・ブルーの髪を目にして……』  この瞬間、私の額にかかる髪にそっとキスをして、彼は言葉を続けた。 『君は私に、この先絶えず勝利をもたらそうと遣わされた、ルリジサの花の精なんだろうな、と』  …………? 『マドンナ・ブルー? なんですかそれは。ルリジサって……』  それは、あなたが私に与えた名前……。 『別名ボリジという、ハーブの一種だ。君の髪の色と同じ色の花を咲かせるんだよ。宗教画家らはその花から青の染料を作り、聖母の衣装を塗る』 『聖母の……』 『だからこの色はマドンナ・ブルーと呼ばれ、貴ばれているんだ』  この色が? 嘘でしょう?
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